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Little stories

夢か何かだったのかもしれない

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夢見の悪さ
ユエリャンはそのまま人の海の中へ消えていった。
「おい、あの人ほっといていいのか?けっこう美人じゃん、いったいどうやってお前に話しかけてくる気になったのか知らないけどさ、追いかけた方が」
「いいんだ、もうちょっと訊きたいことがあったけど教えてくれなさそうだから」
「彼女の気持ちでも気になったのか?」
「そういうのじゃないよ」
タイヤンはガオシンのそういうところが好かなかった。ただ、「追いかけた方がよかったのだろうか」という点についてだけは、よくわからなかったのだった。独りでこんな夜の訪れた乾いた街を歩いて、ユエリャンにとって何の意味があったのか、よくわからなかったからだった。そして、ロプ湖のそばであった時とは違って、現代的な服装に華やかな化粧を施した雰囲気が、まるで同一人物には見えないのだった。あの女性は本当にユエリャンだったのだろうか。

ユエリャンはカフェに入って、アイリッシュコーヒーを飲んでいた。グラスにゆるく溶けた濃い口紅を指で拭き取りながら、ワインを見つめる他の女性と語っていた。「サラ、あなたはこの砂漠のことが気にかかっているようだけど、具体的に何か行動に移すつもりは?」

「今のところは、そうだね…先生のお仲間に入れてもらって、水源と地質の調査をやらせてもらうつもり。私という立場の人間が一人でも入っていれば、多少重しにはなるでしょう」ユエリャンは答えた。「あなたは身軽だから、重しにはちょっと足りないんじゃないかな」

「もう一人、来る予定があるの。かわいい弟。彼も比較的大事な立場にあるからなかなかの追加にはなるんじゃないかと思ってはいるけど。さすがに先生も私一人じゃ足りないと仰るでしょうからね。彼を推薦しようと思ってる」

ユエリャンはまた一口飲んで言った。「ソラのことだね。確かに彼の知識量と政治的なつながりは強みになる。うん、でもさ、あなたは、歌をやめるつもり?ソラも、楽器をやめるの?やめるのはとても惜しいと思うよ」

「しかたないでしょう、あなたの気になっている想いびとのために動いてみせる」「私が彼と結ばれると、思う?」「いいえ、残念ながら私たちと同じ」ユエリャンは言った。「それは、正しい認識。間違ってはない」

「私たちは、良し悪しの世界で生きてる訳じゃあないからね」ユエリャンとサラは同じ言葉を同じイントネーションで重ねて口にして、冷たく笑った。

サラは上着を脱いで、ゆらゆらと長いスカートを揺らしながら、バックミュージックの演奏に合わせて歌を歌って見せた。お客たちは喜んで手を叩き、右手を揃えて挙げた。そして、サラは同じように右手を挙げ、彼らと手を叩いて踊って見せた。

この街の笑顔は確かに愉しく、涼やかな夜にふさわしく賑やかだった。

「サラ!俺の演奏なしに踊るなんてひどいよ!」 髪を短く切りそろえた少年が走ってサラのところに来たのだった。背中には、新しいものと思われる楽器が背負われていた。

「だって、せっかくこの楽しい日曜日にアルコールを飲んでいるのに、楽しく過ごさないなんてもったいないでしょ?さあ、ソラ、早く一曲やってちょうだい」「もちろん!サラ、歌っちゃったんだったら、次は一緒に演奏してよ」ソラは、手にまた他の楽器を持っていた。「こんな砂漠地帯で演奏なんて、僕たちの大事な楽器にはさせられないよ。他のものを持ってくるに決まっているだろう?」

ユエリャンは、大人びたサラと、子どもっぽいソラの話を黙って聞いていた。表面的には対照的だけれども、この2人の愛するものは同じなのだった。「私とタイヤンも、この2人と同じ」

サラとソラの演奏が始まり、静けさがその場を支配した。しかし、途中から2人は目配せし、音楽は転調を繰り返し、聴衆は大いに叫んだ。「この砂漠に水を!水を!水を!」

みな、この街を大事にしていた。酒飲みで、大食らいに、かつ強気の商人として動いてはこの夜のカーテンにくるまれて、そうやって、疲れを寝床に置いて、また朝を迎えるのだった。広がり続ける砂漠は、街を飲み込み始めていたため、みな商業で生きていく必要があった。

「ああ、楽しい。この街には価値があると私は思う」
「そう、そうしよう」
「そうしましょう、ソラ、一緒に先生たちと調査をしましょう」
「いいよ、サラがそうしたいなら」

ユエリャンのアイリッシュコーヒーは、2杯目が出されていた。彼女は口紅を塗り直し、2人を見て微笑み、立ち上がってジャケットを脱ぎ、帽子を外した。見た目にはこの土地の人間ではないが、誰も指摘する人はいなかった。


ユエリャンは、アカペラで「月亮代表我的心」を歌った。
それに合わせて、2人は控えめに演奏していた。

時間は、ゆっくりと、確かに過ぎていた。

この時、タイヤンは既に眠りにつき夢を見ていた。激しいスコールが降った後の、月の明るい夜の夢を。幼いタイヤンは緑の森の中を、静かに歩いている。同じ方向に多くの人が歩いている。誰かが、何かを落としていった。タイヤンが手に取ったのは、赤いリップスティックだった。ブラウンの上着を着た女性のポケットから落ちたのを見ていたタイヤンは、「ちょっと!止まって!」と甲高く叫んだ。しかしその女性は振り返らない。しばらくしてその女性が振り返った瞬間、場面が狂ったように変わって、タイヤンは背中を下にして水の中に押し込まれていた。息ができない、と暴れる。だが、その両手はタイヤンの胸を押さえつけ、離してくれない。さらに暴れるタイヤン。「助けてくれ、死にたくない」

「おい!どうしたんだよ!」
ガオシンの声が遠くから聞こえた。そうか、これは、夢だ。

ガオシンの冷たくなった手がタイヤンの顔を軽くひっぱたいた。タイヤンは、この時に何の夢を見たのか、忘れてしまった。

ランプが灯されていた。「お前、街に行って疲れたか?」ガオシンが右手の腕時計を見て言った。寝袋の留め具は外されていた。「まだ、夜中の1時だぞ。着替えてもう一回朝までちゃんと寝ておけよ。本当に、ここは砂漠なんだからな、疲れをためていちゃ、体が持たない」ガオシンはサソリ対策に使っている網のファスナーを戻し、背中を向けた。

夢の内容すらも、何も覚えていないタイヤンは、着替えを済ませた後砂漠の真夜中独特の空気の冷たさのためにだるさを感じた。ランプを消し、すぐに寝入ってしまった。

さまよえる湖

■---voice---

すべてはフィクションです。

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