「アキ!みどりが!」ヨシが慌てた顔でクルマに乗って部屋の前に来ていた。「今度は何だよ!」「いねえ!」アキは呆れた顔をした後、アキは怒った。「ふざけんな馬鹿!ちゃんと見張ってろって言ったじゃん!」 「しかたねーよ、寝てたからさ」アキは感づいていた。「ネット上のみどり本体が、お迎えにあがったか?」「わたくしの一部をよくも奪い取ったわね」「あのふたりを見つけてくれるなんてこれっぽっちも思っていなかったのよ」ネットワーク上にこぼれ落ちた何かをつたって、分離されたみどりを、みどり本体が奪い返しに来たのだった。それは、夜中、ヨシが眠っている間に起こったことだった。既に街全体はハックされているようだった。シンと静まり返っていて、なにも音がしない。「しょうがねえな…行くか、ヨシ」「ちょっと待ってくれ、先に説明したい」ヨシはアキをひきとめた。「あの分離したみどりは、完全に本体に同化したのかねえ。調べた限りでは、本体の中にちゃんとした人格がいないと維持が難しいタイプだな。だからあの分離したみどりを探し回ってたって訳だ」細々とヨシが語る。「ってことは、やっぱりあの分離したみどりが核だったってことか」アキは納得した。「あのみどりの核を中に閉じこめたまま消さなくてはこっちが危ない。難しいぞ、やるのか?」「あっちから、来るだろう。その時を待っても構わねー。ただし、ヨシ、お前は中に入るな。あいつの本体は…お前に恨みを抱いているはずだ。核をこの部屋に閉じこめていたことが分かれば、ヨシを狙うはず。ヨシは部屋にいて、ネットワーク空間の前にちゃんとファイアウォールを置いておかないと、延焼するだろ?」「アキが出られなくなるじゃねーか!」アキは笑顔を見せ、「何とかするさ」と言った。「それは…自分を守るためか?俺のためか?」「あたしなら可能だから、さ」「やっぱり、みどりを仲間に引き込んで悪用するつもりだったんだ!アキは私たちの敵そのもの」トモエは仲間を集め、警察上層部の同意を得た。しかし問題はマシンだった。「このままでは我々ネットワーク警察の存在価値に問題が発生する。我々がマシンを準備する。待機するように」トモエは心から喜んでいた。ネットワーク上にあるあらゆるモノを崩しつつ、ヨシのところにつながるアドレスに接続しようとしたみどりは、目の前に赤い塊があることに気づいた。「それ」はみどりの中に入り込んだ。アキはみどりの「核」が分離したまま中に入っていることに気がついた。「道理で、ヨシはあいつの状況がわかるはずだ。よくやるよ」「よう、みどり、本体を制御できなくなってるんだな?」「ええ、困ったことですわ」「しかたねーな、この本体を」「外側からわたくしごと消して頂戴」「核であるお前がいないと、この本体は維持できそうにないらしいな…それで構わないのか?」「あなたは私と違って完全な魂を持っている。わたくしの魂は不完全なことに、もう気がついてはいたのです。この中でプログラムを消したら、アキ、あなた自身も消えてしまう可能性が高いのよ。もちろん、ヨシもそう。ふたりはわたくしの壁をはずした後、外から攻撃して頂戴」「おい!邪魔が入りそうだ!さっさと指示をくれ、アキ!」「ヨシ、わかった。みどりの防御を解いてくれ」「そうしたら、核は本体に飲み込まれるぞ」「本人が、やってくれと言っている」ヨシの縄が、アキの体に巻き付く。「ヨシ?!あたしは自分で」みどりがアキを遮った。「いいかしら?わたくしが消えたら、忘れなさい。自分の身を守りなさい、アキはわたくしのこと知ってるんでしょう?もう一人の名前は、アキだったんでしょう?」みどりの核は、笑顔で、引き離されていくアキを見送った。「何考えてんだみどり、自分の全部を消す気か?!」「アキ!俺がやるからおとなしくしててくれ!」「ヨシ、やめろ!復元もできなくなる!」ヨシはアキを捕らえた縄を水面から引き上げた後、エンターキーを二回押しプログラムを打ち込んだ。「みどり!」アキは叫んだ。みどりはボロボロと崩れていく。整然と並べられた記号になり、それがふわふわと広がって、溶けていく。「アキ、みどりにはな、体も、命も、魂すら無かったんだからしかたがないんだ。ただあそこにあったのは人格だ。誰かがコピーしたのか、作り直したのかはわからなかったけどな。それに、自分のことは自分でケリをつけるしか…」ヨシは既に分かっていることを言った。「それは、あたしも同じだ」「…同じ、とはどういうことだ?」アキは余計なことだ、と何も言わなかった。トモエは巻き込まれたその状況がわからず、ただどうしようもないことがあることを理解した。「次のチャンスがあるって」「わ、わかってる。ありがとう」同僚の慰めに、気丈に振る舞うトモエ。しかし、アキたちが敵なのか味方なのかわからなくなってしまっていた。そこに、上司が現れ、トモエは席を外すよう言われたため、トモエは「先に帰ります、明後日戻ります」と言ってその場を離れた。「あの子がネットワークに入った時、気付いたことがあったでしょう」「ええ、みどりは幼い子供の姿でしたが、トモエさんの現実での姿はまるで成長したみどりの姿です。でもまさか、関係があるということなのでしょうか」「わかんねーな」ヨシはいつもの通り、酒を飲みながら考えていた。しかし、ヨシは何となく、不可解な何かに一瞬触れたような気がしたのだった。「…みどりには人格というものが確かにあったが、精神とかそういうものはあったんだろうか」体が既に失われながら電子世界に存在していたみどり。彼女には、「いのち」があったのか。それは、ヨシには到底理解の及ばないものだった。「それにしても不自然だな…アキは」そう、ヨシは思い出していた。アキは自分と同じ条件の中で電子の海に潜ったはずだった。だが、アキは自分よりもスムーズに電子の海の中を泳いでいた。場数をこなしていたから、というものではないような気が、ヨシにはしていた。あの素早さはどこから可能なことになるのか。それに、その時に、アキの魂の存在をちゃんと感じたはずだった。しかし、みどりに出会った時に感じた、生身の人間ではないその存在感に似たものがあった。「アキはふつうの人間ではないのか?」ヨシの考えを更に覆す、その疑問に答えられる人は、彼女自身以外にはいないように思われた。しかし、直接尋ねたところで、「たぶん答えちゃくれねーんだろうな」prev: https://novels.thewhitenotes.net/?postid...next: 2024.4.25(Thu) 10:13:04 電子世界1
「今度は何だよ!」
「いねえ!」
アキは呆れた顔をした後、アキは怒った。「ふざけんな馬鹿!ちゃんと見張ってろって言ったじゃん!」 「しかたねーよ、寝てたからさ」アキは感づいていた。「ネット上のみどり本体が、お迎えにあがったか?」
「わたくしの一部をよくも奪い取ったわね」「あのふたりを見つけてくれるなんてこれっぽっちも思っていなかったのよ」ネットワーク上にこぼれ落ちた何かをつたって、分離されたみどりを、みどり本体が奪い返しに来たのだった。それは、夜中、ヨシが眠っている間に起こったことだった。
既に街全体はハックされているようだった。シンと静まり返っていて、なにも音がしない。「しょうがねえな…行くか、ヨシ」「ちょっと待ってくれ、先に説明したい」ヨシはアキをひきとめた。「あの分離したみどりは、完全に本体に同化したのかねえ。調べた限りでは、本体の中にちゃんとした人格がいないと維持が難しいタイプだな。だからあの分離したみどりを探し回ってたって訳だ」細々とヨシが語る。「ってことは、やっぱりあの分離したみどりが核だったってことか」アキは納得した。「あのみどりの核を中に閉じこめたまま消さなくてはこっちが危ない。難しいぞ、やるのか?」「あっちから、来るだろう。その時を待っても構わねー。ただし、ヨシ、お前は中に入るな。あいつの本体は…お前に恨みを抱いているはずだ。核をこの部屋に閉じこめていたことが分かれば、ヨシを狙うはず。ヨシは部屋にいて、ネットワーク空間の前にちゃんとファイアウォールを置いておかないと、延焼するだろ?」「アキが出られなくなるじゃねーか!」アキは笑顔を見せ、「何とかするさ」と言った。「それは…自分を守るためか?俺のためか?」「あたしなら可能だから、さ」
「やっぱり、みどりを仲間に引き込んで悪用するつもりだったんだ!アキは私たちの敵そのもの」トモエは仲間を集め、警察上層部の同意を得た。しかし問題はマシンだった。「このままでは我々ネットワーク警察の存在価値に問題が発生する。我々がマシンを準備する。待機するように」トモエは心から喜んでいた。
ネットワーク上にあるあらゆるモノを崩しつつ、ヨシのところにつながるアドレスに接続しようとしたみどりは、目の前に赤い塊があることに気づいた。「それ」はみどりの中に入り込んだ。アキはみどりの「核」が分離したまま中に入っていることに気がついた。「道理で、ヨシはあいつの状況がわかるはずだ。よくやるよ」
「よう、みどり、本体を制御できなくなってるんだな?」「ええ、困ったことですわ」「しかたねーな、この本体を」「外側からわたくしごと消して頂戴」「核であるお前がいないと、この本体は維持できそうにないらしいな…それで構わないのか?」「あなたは私と違って完全な魂を持っている。わたくしの魂は不完全なことに、もう気がついてはいたのです。この中でプログラムを消したら、アキ、あなた自身も消えてしまう可能性が高いのよ。もちろん、ヨシもそう。ふたりはわたくしの壁をはずした後、外から攻撃して頂戴」
「おい!邪魔が入りそうだ!さっさと指示をくれ、アキ!」
「ヨシ、わかった。みどりの防御を解いてくれ」
「そうしたら、核は本体に飲み込まれるぞ」
「本人が、やってくれと言っている」ヨシの縄が、アキの体に巻き付く。
「ヨシ?!あたしは自分で」みどりがアキを遮った。
「いいかしら?わたくしが消えたら、忘れなさい。自分の身を守りなさい、アキはわたくしのこと知ってるんでしょう?もう一人の名前は、アキだったんでしょう?」みどりの核は、笑顔で、引き離されていくアキを見送った。
「何考えてんだみどり、自分の全部を消す気か?!」
「アキ!俺がやるからおとなしくしててくれ!」
「ヨシ、やめろ!復元もできなくなる!」
ヨシはアキを捕らえた縄を水面から引き上げた後、エンターキーを二回押しプログラムを打ち込んだ。
「みどり!」アキは叫んだ。みどりはボロボロと崩れていく。整然と並べられた記号になり、それがふわふわと広がって、溶けていく。
「アキ、みどりにはな、体も、命も、魂すら無かったんだからしかたがないんだ。ただあそこにあったのは人格だ。誰かがコピーしたのか、作り直したのかはわからなかったけどな。それに、自分のことは自分でケリをつけるしか…」ヨシは既に分かっていることを言った。
「それは、あたしも同じだ」
「…同じ、とはどういうことだ?」
アキは余計なことだ、と何も言わなかった。
トモエは巻き込まれたその状況がわからず、ただどうしようもないことがあることを理解した。
「次のチャンスがあるって」
「わ、わかってる。ありがとう」
同僚の慰めに、気丈に振る舞うトモエ。
しかし、アキたちが敵なのか味方なのかわからなくなってしまっていた。
そこに、上司が現れ、トモエは席を外すよう言われたため、トモエは「先に帰ります、明後日戻ります」と言ってその場を離れた。
「あの子がネットワークに入った時、気付いたことがあったでしょう」
「ええ、みどりは幼い子供の姿でしたが、トモエさんの現実での姿はまるで成長したみどりの姿です。でもまさか、関係があるということなのでしょうか」
「わかんねーな」
ヨシはいつもの通り、酒を飲みながら考えていた。しかし、ヨシは何となく、不可解な何かに一瞬触れたような気がしたのだった。
「…みどりには人格というものが確かにあったが、精神とかそういうものはあったんだろうか」
体が既に失われながら電子世界に存在していたみどり。彼女には、「いのち」があったのか。それは、ヨシには到底理解の及ばないものだった。
「それにしても不自然だな…アキは」そう、ヨシは思い出していた。アキは自分と同じ条件の中で電子の海に潜ったはずだった。だが、アキは自分よりもスムーズに電子の海の中を泳いでいた。場数をこなしていたから、というものではないような気が、ヨシにはしていた。あの素早さはどこから可能なことになるのか。
それに、その時に、アキの魂の存在をちゃんと感じたはずだった。しかし、みどりに出会った時に感じた、生身の人間ではないその存在感に似たものがあった。「アキはふつうの人間ではないのか?」ヨシの考えを更に覆す、その疑問に答えられる人は、彼女自身以外にはいないように思われた。しかし、直接尋ねたところで、
「たぶん答えちゃくれねーんだろうな」
prev: https://novels.thewhitenotes.net/?postid...
next: