No.25, No.24, No.23, No.22, No.21[5件]
さまよえる湖
ユエリャンは、サラとソラの「先生」と話していた。「このような結果になってしまい、とても残念です。しかし、ご尽力ありがとうございました」
「ユエリャン、君は諦めてしまうのか?」「はい。ただ、ここにいる人たちをできるだけ助けてあげられませんか」「それは構わない。もし私が意図したことだと明らかになれば後で色々な方面から非難されるだろうが、この街や砂漠の少数民族に情報を流すのは簡単なことだ。混乱に乗じて情報元を隠すことは容易になりえるだろう。約束は守る。」
「お願いします」
扉を開けて、出ていこうとするユエリャンに「先生」は言った。
「君はどうするんだ、ここに残るのか」
「まだ、私の呼んだ人たちがここにいるのに、あっちに逃げる訳にはいきません。私はここにいるからこそ役に立っていたのですから、逃げてはいけません。先生が早くこの街を離れてくださらないと、私も離れません」
一方で、サラたちは街に戻り荷物を置いて、バス停の行列を目にしていた。タイヤンはこの騒ぎに紛れて、いなくなってしまっていた。夜だというのに、人も車も通りにいっぱいあふれていた。異なる文字の書かれたバスまで来ていた。「いつの間に、情報がこちらへ流れてたんだろう」ソラは驚いて言った。ガオシンとソラは言った。「長老は早くこの車でお逃げになってください。村人が順調にこの街を離れていますから、心配はいりません。」マクシムから丁寧に習った言葉で、最初には困難だった言葉の壁はすっかり取り払われていた。「申し訳ないが、この体では自由も利かないし迷惑をかけてしまう。君たちも早く逃げるように」
「大丈夫です、長老」ソラははっきりと言った。「俺たちは大丈夫です」
長老が車に乗ってからガオシンは言った。「大丈夫なわけがないだろ」「そんなこと言えないよ」ソラは悔しさのために、眉に力を込めた。「そんなこと言ってる暇はないよ、早く動かないと」「サラは平気なのかよ」「恐怖なんて感じてないよ」サラは、茶色い髪を軽くまとめた。「とにかく街にいて、先生たちに協力をお願いしないと。」「タイヤンを探さないのか?!」ガオシンは叫んだ。「こんな時にいなくなるとか聞いてないよ、放っておけばいいだろ!」ソラは出会ったばかりの頃のように喧嘩腰で怒鳴った。
ユエリャンは、湖へと向かっていた。「私がここにいても、だめなんだ。それなら尚更、ここにいなきゃね」ユエリャンの顔を隠していた布が風に揺られ、伏せた顔に暗くなった緑色の瞳が見える。タイヤンたちがもうここを離れたことに気がつくと、ユエリャンは一度目を閉じた。「せっかくあっちに水脈があるって教えてあげられるのに、こんな状況じゃ水を必要とする人がいなくなっちゃうね…」
ユエリャンはそれでも歩き続け、湖にたどり着いた。真っ暗だったが、既に月明かりで砂漠は明るかった。「水、水。そして塩水…」
「タイヤンたちはもう無事に帰ったかな。見あたらないってことはとりあえず一安心」ユエリャンは目を閉じて、砂漠の湖に入った。「私はここにいるべきなんだから」月がより強く明るく砂漠を照らしている。
ユエリャンは記憶を巡らせた。父の国、母の国、どちらからも深くは受け入れられず、ただ利用されるだけだった幼い時代を。どちらも愛すべき故郷だったけれど、自らを愛した両親の出会ったこの砂漠を、ユエリャンは離れるつもりは一切なかった。自分を嫌う、父の村の関係者にとっては、唯一の「外部へのつながり」だったからと、その役に立つことを選んだユエリャンは、脚を塩水に浸したまま静かに立っていた。
何時間も経って、ユエリャンは遠くに火が見えることに気がついた。「諦める他ないって話か…」ユエリャンはタイヤンたちの顔を思い浮かべた。「彼らが無事なら、またほとぼり冷めた頃にここにくるだろうけど」遠くの街は燃えている。「みんなもう戻ってこないかもしれないね」
「諦める時間が来るのを待つしかないというのも気分が悪いけれど、そのために生きてきたようなものなんだから、諦めるのは死ぬ時を待ってからにするべきだとは思う。ねえロプノール、あんたここで消えちゃうかもね。まだここで生きることを願ってる奴らのために何かやってやろうとは思わない?」冷たい夜の風が吹いて、ユエリャンは頭の覆いを取り払った。布が一枚水面に落ちて、ゆっくりと沈んでいく。
何時間も経った頃、タイヤンの声が響いた。
「ユエリャン!」
タイヤンは特になにも言わなかった。ただひとつの他は。
「この湖になぜそこまでこだわるんだ。ただの塩水じゃないか。塩を取り除かなきゃ飲めない。確かに商売には使えるかもしれないけれど」
「知らなかった?私はこの湖そのもの」
「私はどこの人でもない」
「ただこの砂漠にいるほか何の目的もないよ」
ユエリャンは続けて言った。
「私はここを離れない。でもよく来てくれたと思ってる。引き替えにいいものを」
そうして、白い火がたくさん降ってくるのを、タイヤンとサラは見た。
「信じても何にもならないことくらいは、理解してね」
ユエリャンはタイヤンを湖の中へと導いた。
「こっちの方が安全」
そうして、ユエリャンはタイヤンの首を強烈な力で、信じられないような力で、湖の中へと沈めた。タイヤンは激しく暴れた。ユエリャンの声がひとつだけ聞こえた。「私はいなくなるけど、ひとつだけいいものをあなたたちにあげる」
空爆の炎が湖を包み、二人は湖ごと消えた。
遠くからヘリの音が聞こえる。
マクシムとガオシンの強い叫び声が聞こえる。
非常に強い雨と、風の吹いている中で、タイヤンは意識を取り戻した。
サラの声が聞こえる。
タイヤンは初めて口をきいた。
「湖と、ユエリャンはどこに」
「タイヤン、諦めなさい。ユエリャンは見つからなかった。」
「サラ、どうして止めなかった」
サラは顔を背けた。
タイヤンは、医者から許可をもらった後、砂漠に向かうつもりだった。病室を立ち去ろうとするタイヤンに、大きな陰が話しかけた。「おい、タイヤン。湖を探しに行くのか?いい話がある。お前の見つかったところに、大きな水脈が見つかった。」マクシムだった。「お前が寝てる間に探したんだよ。政府は今メチャクチャだ、勝手に入ろうが出ていこうが、誰も意に介さない。あの民族たちが戻ろうとしているんだよ」
マクシムの後ろから出てきて、ソフィアは言った。
「ユエリャンを探しに行くの?」
タイヤンは言った。
「いいや。いいんだ。水脈を掘り起こして、早く村の人が戻ってこれるようにしよう。ユエリャンはそうしてほしかったんだ。」
(了)
ユエリャンは、サラとソラの「先生」と話していた。「このような結果になってしまい、とても残念です。しかし、ご尽力ありがとうございました」
「ユエリャン、君は諦めてしまうのか?」「はい。ただ、ここにいる人たちをできるだけ助けてあげられませんか」「それは構わない。もし私が意図したことだと明らかになれば後で色々な方面から非難されるだろうが、この街や砂漠の少数民族に情報を流すのは簡単なことだ。混乱に乗じて情報元を隠すことは容易になりえるだろう。約束は守る。」
「お願いします」
扉を開けて、出ていこうとするユエリャンに「先生」は言った。
「君はどうするんだ、ここに残るのか」
「まだ、私の呼んだ人たちがここにいるのに、あっちに逃げる訳にはいきません。私はここにいるからこそ役に立っていたのですから、逃げてはいけません。先生が早くこの街を離れてくださらないと、私も離れません」
一方で、サラたちは街に戻り荷物を置いて、バス停の行列を目にしていた。タイヤンはこの騒ぎに紛れて、いなくなってしまっていた。夜だというのに、人も車も通りにいっぱいあふれていた。異なる文字の書かれたバスまで来ていた。「いつの間に、情報がこちらへ流れてたんだろう」ソラは驚いて言った。ガオシンとソラは言った。「長老は早くこの車でお逃げになってください。村人が順調にこの街を離れていますから、心配はいりません。」マクシムから丁寧に習った言葉で、最初には困難だった言葉の壁はすっかり取り払われていた。「申し訳ないが、この体では自由も利かないし迷惑をかけてしまう。君たちも早く逃げるように」
「大丈夫です、長老」ソラははっきりと言った。「俺たちは大丈夫です」
長老が車に乗ってからガオシンは言った。「大丈夫なわけがないだろ」「そんなこと言えないよ」ソラは悔しさのために、眉に力を込めた。「そんなこと言ってる暇はないよ、早く動かないと」「サラは平気なのかよ」「恐怖なんて感じてないよ」サラは、茶色い髪を軽くまとめた。「とにかく街にいて、先生たちに協力をお願いしないと。」「タイヤンを探さないのか?!」ガオシンは叫んだ。「こんな時にいなくなるとか聞いてないよ、放っておけばいいだろ!」ソラは出会ったばかりの頃のように喧嘩腰で怒鳴った。
ユエリャンは、湖へと向かっていた。「私がここにいても、だめなんだ。それなら尚更、ここにいなきゃね」ユエリャンの顔を隠していた布が風に揺られ、伏せた顔に暗くなった緑色の瞳が見える。タイヤンたちがもうここを離れたことに気がつくと、ユエリャンは一度目を閉じた。「せっかくあっちに水脈があるって教えてあげられるのに、こんな状況じゃ水を必要とする人がいなくなっちゃうね…」
ユエリャンはそれでも歩き続け、湖にたどり着いた。真っ暗だったが、既に月明かりで砂漠は明るかった。「水、水。そして塩水…」
「タイヤンたちはもう無事に帰ったかな。見あたらないってことはとりあえず一安心」ユエリャンは目を閉じて、砂漠の湖に入った。「私はここにいるべきなんだから」月がより強く明るく砂漠を照らしている。
ユエリャンは記憶を巡らせた。父の国、母の国、どちらからも深くは受け入れられず、ただ利用されるだけだった幼い時代を。どちらも愛すべき故郷だったけれど、自らを愛した両親の出会ったこの砂漠を、ユエリャンは離れるつもりは一切なかった。自分を嫌う、父の村の関係者にとっては、唯一の「外部へのつながり」だったからと、その役に立つことを選んだユエリャンは、脚を塩水に浸したまま静かに立っていた。
何時間も経って、ユエリャンは遠くに火が見えることに気がついた。「諦める他ないって話か…」ユエリャンはタイヤンたちの顔を思い浮かべた。「彼らが無事なら、またほとぼり冷めた頃にここにくるだろうけど」遠くの街は燃えている。「みんなもう戻ってこないかもしれないね」
「諦める時間が来るのを待つしかないというのも気分が悪いけれど、そのために生きてきたようなものなんだから、諦めるのは死ぬ時を待ってからにするべきだとは思う。ねえロプノール、あんたここで消えちゃうかもね。まだここで生きることを願ってる奴らのために何かやってやろうとは思わない?」冷たい夜の風が吹いて、ユエリャンは頭の覆いを取り払った。布が一枚水面に落ちて、ゆっくりと沈んでいく。
何時間も経った頃、タイヤンの声が響いた。
「ユエリャン!」
タイヤンは特になにも言わなかった。ただひとつの他は。
「この湖になぜそこまでこだわるんだ。ただの塩水じゃないか。塩を取り除かなきゃ飲めない。確かに商売には使えるかもしれないけれど」
「知らなかった?私はこの湖そのもの」
「私はどこの人でもない」
「ただこの砂漠にいるほか何の目的もないよ」
ユエリャンは続けて言った。
「私はここを離れない。でもよく来てくれたと思ってる。引き替えにいいものを」
そうして、白い火がたくさん降ってくるのを、タイヤンとサラは見た。
「信じても何にもならないことくらいは、理解してね」
ユエリャンはタイヤンを湖の中へと導いた。
「こっちの方が安全」
そうして、ユエリャンはタイヤンの首を強烈な力で、信じられないような力で、湖の中へと沈めた。タイヤンは激しく暴れた。ユエリャンの声がひとつだけ聞こえた。「私はいなくなるけど、ひとつだけいいものをあなたたちにあげる」
空爆の炎が湖を包み、二人は湖ごと消えた。
遠くからヘリの音が聞こえる。
マクシムとガオシンの強い叫び声が聞こえる。
非常に強い雨と、風の吹いている中で、タイヤンは意識を取り戻した。
サラの声が聞こえる。
タイヤンは初めて口をきいた。
「湖と、ユエリャンはどこに」
「タイヤン、諦めなさい。ユエリャンは見つからなかった。」
「サラ、どうして止めなかった」
サラは顔を背けた。
タイヤンは、医者から許可をもらった後、砂漠に向かうつもりだった。病室を立ち去ろうとするタイヤンに、大きな陰が話しかけた。「おい、タイヤン。湖を探しに行くのか?いい話がある。お前の見つかったところに、大きな水脈が見つかった。」マクシムだった。「お前が寝てる間に探したんだよ。政府は今メチャクチャだ、勝手に入ろうが出ていこうが、誰も意に介さない。あの民族たちが戻ろうとしているんだよ」
マクシムの後ろから出てきて、ソフィアは言った。
「ユエリャンを探しに行くの?」
タイヤンは言った。
「いいや。いいんだ。水脈を掘り起こして、早く村の人が戻ってこれるようにしよう。ユエリャンはそうしてほしかったんだ。」
(了)
散る
時間が距離や量ではかれるほどになってから、ある日マクシムは電話を受けた。「どうした、マクシム」
「ソフィア、ちょっとこっちに」マクシムは母語でソフィアと深刻そうな表情でしばらく話し合っていた。そして、一度外に出ていった。
マクシムとソフィアは外に出てほしいと言ったが、タイヤンは「忙しいから、俺への話は後回しにしてくれよ」と言って、本を漁っていた。しかしながらマクシムは、「いや、後じゃ困るんだ。今話さなくてはならないと思う。ソフィアもそう思うだろう?」
ソフィアの表情はあまりよくはなかった。むしろ暗く、悪い話であることをタイヤンに言わんばかりだった。「申し訳ないけど、私たちはここを離れなくてはならなくなってしまった」その声を聞いて、全員がテントから外に出た。白い日光が眩しい。
「ここを離れる、とは?一旦帰国してからこっちに戻ってくるのか?」ガオシンは話がよくわからない、といった様子で尋ねた。「どうして?協力してくれるって言ったじゃないか!」タイヤンはマクシムにつかみかかろうとしたが、ソラがやめさせた。「話を聞かせてくれないと、こっちも納得できないな。それにこのマシンや他の道具はどうするつもりだ?いつ戻ってくるつもりでいるんだ?全部答えてほしい」
ソフィアが代わりに答えた。
「私たちが戻ってこれるかどうかは、ここの政府がどういう行動をするかによる、としか言えない。母国で選挙があって、状況が変わったの。私たちは今まで自由に動いていたけど、今の政治はそれを許さない。私たちは政府とニーナが送ってくれるヘリに拾ってもらうけど、あなたたちもここを離れないと。しばらく黙ってたんだけど、かなり状況が悪い。パスポートさえ持ってればこっちに来てもらってもかまわないから」
タイヤンは「状況って何なんだ?」と問いつめた。マクシムが苦々しく答えた。「ここの政府はね。この街を吹き飛ばすつもりらしい」
「どうしてそんな、だってお前たちがいれば大丈夫だって、先生も電話で言ってたじゃないか…だめなのかよ」
ガオシンもマクシムに言った。
「サラ、ごめんね、私たちだけじゃだめだったみたい」ソフィアはサラの手を取って涙ぐんだ。「サラの故郷、これじゃ守れない」
ソラは「やっぱりだめなのかよ、お前たちがいたって結局問題なんかひとつも解決できないんじゃないか。この砂漠も街も、むしろ終わらせてしまうようなものじゃないか!」全員がおしだまった。この中で一番苦しいのは、ここを故郷とするサラとソラの2人だった。
サラはソラと話し始めた。「ソラ、これは私たちの問題なんだから、本当は頼っちゃいけなかったんだよ。生き延びるためにこの街を出る?あなたはマクシムについて行きなさい」「サラはどうするつもりなんだよ!」「ここの人を一人でも他の場所に移さなくては。私たちの故郷は土地だけじゃないんだから。人だって、故郷の一部なんだから。嘆いている余裕はなさそうだし、動きましょう」
ソフィアは「だめだよ、今動かないと間に合わないよ」
サラは顔の覆いを取ってそれぞれの目を見て話した。「あなたたちは自分のことを自分で決めなさい、私たちも自分のことは自分で決める。今言ったように、私たちは動く」
ソラは顔を隠したまま、話した。「俺はサラと一緒にここの人間を外に逃す。ここに残る。それでいい。」
「タイヤン、ガオシン、あなたたちは一度ここを離れなさい」サラは続けて話したが、タイヤンは反論した。「いや、それはしない。砂漠に」ガオシンは言った。「砂漠からは一度避難しよう。状況がわかるまで街に行くんだ、タイヤン。」
「ガオシンはいつも冷静だね、いいことだと思うよ」サラは言ったが、「途中までは、サラたちと一緒にいるよ。冷静なだけじゃ、こいつが我慢ならないと思うんでね」とガオシンはタイヤンを指さして言った。
「爆撃がどの規模でどの辺りまで広がるかは予測できない。それを念頭に置くんだ。」マクシムは言った。
ヘリが遠くに見える。ああ、あのヘリで、マクシムとソフィアは帰ってしまう。
2人は言った。「機材や、持ってきたものは置いていくよ。戻ってこれることを期待して、ね」
ソラは2人に「ふざけんな、微塵も期待なんて持てない癖に!」と怒鳴った。サラは冷たく言った。「期待なんてどうでもいいの、とにかくユエリャンの居場所を確認しないと。他の村人はたぶん私たちの話を聞かないだろうけど、とにかく被害は少ない方がいいに決まってる」
「ユエリャン…ユエリャンはここにいるままなのか?」タイヤンはユエリャンのことをすっかり忘れていたので、名前を聞いてふと遠くの記憶をさぐった。「あの子はしばらく湖を離れてるみたいだから、街にいるんでしょうね」「サラはユエリャンと仲がいいのか」「…まあ、悪くはないけど」「姉妹?」「今そんなことは話すつもりないから」サラは話したがらない様子だったため、タイヤンは聞き出すのを諦めた。
時間が距離や量ではかれるほどになってから、ある日マクシムは電話を受けた。「どうした、マクシム」
「ソフィア、ちょっとこっちに」マクシムは母語でソフィアと深刻そうな表情でしばらく話し合っていた。そして、一度外に出ていった。
マクシムとソフィアは外に出てほしいと言ったが、タイヤンは「忙しいから、俺への話は後回しにしてくれよ」と言って、本を漁っていた。しかしながらマクシムは、「いや、後じゃ困るんだ。今話さなくてはならないと思う。ソフィアもそう思うだろう?」
ソフィアの表情はあまりよくはなかった。むしろ暗く、悪い話であることをタイヤンに言わんばかりだった。「申し訳ないけど、私たちはここを離れなくてはならなくなってしまった」その声を聞いて、全員がテントから外に出た。白い日光が眩しい。
「ここを離れる、とは?一旦帰国してからこっちに戻ってくるのか?」ガオシンは話がよくわからない、といった様子で尋ねた。「どうして?協力してくれるって言ったじゃないか!」タイヤンはマクシムにつかみかかろうとしたが、ソラがやめさせた。「話を聞かせてくれないと、こっちも納得できないな。それにこのマシンや他の道具はどうするつもりだ?いつ戻ってくるつもりでいるんだ?全部答えてほしい」
ソフィアが代わりに答えた。
「私たちが戻ってこれるかどうかは、ここの政府がどういう行動をするかによる、としか言えない。母国で選挙があって、状況が変わったの。私たちは今まで自由に動いていたけど、今の政治はそれを許さない。私たちは政府とニーナが送ってくれるヘリに拾ってもらうけど、あなたたちもここを離れないと。しばらく黙ってたんだけど、かなり状況が悪い。パスポートさえ持ってればこっちに来てもらってもかまわないから」
タイヤンは「状況って何なんだ?」と問いつめた。マクシムが苦々しく答えた。「ここの政府はね。この街を吹き飛ばすつもりらしい」
「どうしてそんな、だってお前たちがいれば大丈夫だって、先生も電話で言ってたじゃないか…だめなのかよ」
ガオシンもマクシムに言った。
「サラ、ごめんね、私たちだけじゃだめだったみたい」ソフィアはサラの手を取って涙ぐんだ。「サラの故郷、これじゃ守れない」
ソラは「やっぱりだめなのかよ、お前たちがいたって結局問題なんかひとつも解決できないんじゃないか。この砂漠も街も、むしろ終わらせてしまうようなものじゃないか!」全員がおしだまった。この中で一番苦しいのは、ここを故郷とするサラとソラの2人だった。
サラはソラと話し始めた。「ソラ、これは私たちの問題なんだから、本当は頼っちゃいけなかったんだよ。生き延びるためにこの街を出る?あなたはマクシムについて行きなさい」「サラはどうするつもりなんだよ!」「ここの人を一人でも他の場所に移さなくては。私たちの故郷は土地だけじゃないんだから。人だって、故郷の一部なんだから。嘆いている余裕はなさそうだし、動きましょう」
ソフィアは「だめだよ、今動かないと間に合わないよ」
サラは顔の覆いを取ってそれぞれの目を見て話した。「あなたたちは自分のことを自分で決めなさい、私たちも自分のことは自分で決める。今言ったように、私たちは動く」
ソラは顔を隠したまま、話した。「俺はサラと一緒にここの人間を外に逃す。ここに残る。それでいい。」
「タイヤン、ガオシン、あなたたちは一度ここを離れなさい」サラは続けて話したが、タイヤンは反論した。「いや、それはしない。砂漠に」ガオシンは言った。「砂漠からは一度避難しよう。状況がわかるまで街に行くんだ、タイヤン。」
「ガオシンはいつも冷静だね、いいことだと思うよ」サラは言ったが、「途中までは、サラたちと一緒にいるよ。冷静なだけじゃ、こいつが我慢ならないと思うんでね」とガオシンはタイヤンを指さして言った。
「爆撃がどの規模でどの辺りまで広がるかは予測できない。それを念頭に置くんだ。」マクシムは言った。
ヘリが遠くに見える。ああ、あのヘリで、マクシムとソフィアは帰ってしまう。
2人は言った。「機材や、持ってきたものは置いていくよ。戻ってこれることを期待して、ね」
ソラは2人に「ふざけんな、微塵も期待なんて持てない癖に!」と怒鳴った。サラは冷たく言った。「期待なんてどうでもいいの、とにかくユエリャンの居場所を確認しないと。他の村人はたぶん私たちの話を聞かないだろうけど、とにかく被害は少ない方がいいに決まってる」
「ユエリャン…ユエリャンはここにいるままなのか?」タイヤンはユエリャンのことをすっかり忘れていたので、名前を聞いてふと遠くの記憶をさぐった。「あの子はしばらく湖を離れてるみたいだから、街にいるんでしょうね」「サラはユエリャンと仲がいいのか」「…まあ、悪くはないけど」「姉妹?」「今そんなことは話すつもりないから」サラは話したがらない様子だったため、タイヤンは聞き出すのを諦めた。
雨季
「雨季に入って、1ヶ月が過ぎたけど、湖がなかなか現れないね。まあ、調査なんて根気の要ることだけど、これは気力が削がれるね」その夜、ソフィアはテントの中で横になりながらぽつりと言った。
大きくしたテントの別室からは、「まだまだ、これからだよ。俺が見たロプ湖はとても大きかったんだ。こんな雨じゃ足りないくらいに」と、タイヤンの声が聞こえた。「君たちはすごい奴だ、こんな状況で、ずっと調査を2人や4人で続けていたんだろう?」「それも、携帯もなしに」ソフィアが続けて話し、ああ、と、マクシムは大げさに腕を広げて見せた。「おい、マクシム、お前身体がでかいんだからあんまりそうやるなよ」ガオシンはマクシムに言った。
サラはユエリャンのことが気になっていた。「ロプ湖が見つかるといいね…」他の3人は異口同音に、ゴチャゴチャと言ったが、タイヤンは最後に言った。「見つかるよ、さまよえる湖なんだろう?さまよっているってことは、以前動いたところでまた会えるってことだろう」
タイヤンはユエリャンのことをこの時、思い出した。「ユエリャンはどこにいるんだろうな」
ひとしきり雨が降った後、つかの間の晴れが訪れた。
テントの窓を開けたソラは喜んで外に出ていった。
「晴れた!晴れたぞ!」
サラも外に出て、頭をまた、あの出会った時のように布で覆い隠した。ソフィアが、ねえ、一曲演奏してよ、と2人に楽器を持っていった。
タイヤン、ガオシン、マクシムの3人は、その3人の後ろに大きな湖を見て、驚いたまま立ち尽くしていた。その遠くに、誰かがいて、それがユエリャンであることは、タイヤンとサラだけが気づいていた。
「とにかく」「これで最善の調査って奴ができるんだ」「やるべきことも整ってる。これを待ってた!」口々に言っては、それぞれやるべきことにゴソゴソと取りかかっていた。サラはタイヤンに言った。「湖のところに行ってちょうだい、ユエリャンがきっと待ってる」
「ユエリャンって誰?」
マクシムとソフィアが尋ねてきたが、「後で説明するから、今は自分のことをやって」と答えて、更に重ねて言った。「あんたはユエリャンのところに行きなさい、ユエリャンはずっと湖のそばにいるけど、たぶんそれは、この政情のバランスが崩れたらかなわない。でもユエリャンは一応重要人物なんだよ、殺されたりなんかでもしたら」「サラ、詳しく聞かせてくれないのか、あの子は何者なんだよ」「マクシムやソフィアの国では、貴族制度があるでしょう」「俺はそこまで知らないけど…とにかく、それでお察しくださいって訳か、くそっ、問いつめてやる」「そんな!」
タイヤンは走っていった。「おい、タイヤン!」「後で!」叫ぶガオシンに、タイヤンは言い訳もせずに走っていったのだった。
「タイヤン、しばらくぶり。今、忙しいのではないの?」
何事もなかったかのように素っ気ないユエリャンの声に、タイヤンは問い詰めようと近づいた。「マクシムたちのこと、気がついた?こちらに来れるように、私が少し動いたの」「ユエリャンは政治家か?」「いいえ」「じゃあ何だ?あんた何者だよ」「さあね、答える気は一切ないから自分の持ち場に戻りなさい」「俺を駒か何かだと思ってるのか?」ユエリャンは答えなかった。「そう思ってるんだな?自分が権力者の元にいる人間だからか?」
「逆」
白い肌の顔を出して、茶色の髪を風になびかせると、あの明るい緑色の瞳を大きく見開いて言った。
「せっかく晴れたのだから、そんなことを言っていないで、自分の好きなことをすればいいじゃない?」
緑色の瞳が、タイヤンのブラウンの瞳をのぞき込んだ。
「大したことじゃないよ、さあ行きなさい。」
タイヤンがその場を去ってしまうと、ユエリャンはため息をついた。「権力者、ねえ」ユエリャンの瞳には、もう別のものが映っていた。
マクシムの国と、タイヤンの国の間の国には、火種があった。水である。水は稀少であり、タイヤンの探している水脈が見つからなければすぐにも少数民族同士の対立は深まり、それは隣国の政府へと広がっていく。それをよしとしないタイヤンの国の政府は早いうちにと何か手を下すだろう。
タイヤンの国の政府は、既に砂漠を実験場にしたことがあった。その頃には規模があまり大きくなかったためまだ街が残っていた。タイヤンたちがここを訪れて間もなかった頃、地面を掘って出てきたものはその当時、強制的に立ち退きさせられ、そこに残されていたものだった。
「この様子だと、核実験か戦争か、何かしらまた起きるかもね」ユエリャンは髪をゆるくまとめて服の中へしまい、頭と顔を覆った。「そうしないための方策はタイヤンに任せたようなもの。どうして駒として見ることができるなんて思ったのかな」
最善の状態での調査は、順調に進んでいた。サラとソラは地理的知識を駆使し、マクシムとソフィアはコミュニケーションの問題を無くし、タイヤンとガオシンはその中心で調査を続けていた。日が昇り白い直射日光が現れる頃から、日が暮れて紫色の空が見えるまで、毎日続けられた。一日は毎日短く感じられ、時間は消えていった。
「雨季に入って、1ヶ月が過ぎたけど、湖がなかなか現れないね。まあ、調査なんて根気の要ることだけど、これは気力が削がれるね」その夜、ソフィアはテントの中で横になりながらぽつりと言った。
大きくしたテントの別室からは、「まだまだ、これからだよ。俺が見たロプ湖はとても大きかったんだ。こんな雨じゃ足りないくらいに」と、タイヤンの声が聞こえた。「君たちはすごい奴だ、こんな状況で、ずっと調査を2人や4人で続けていたんだろう?」「それも、携帯もなしに」ソフィアが続けて話し、ああ、と、マクシムは大げさに腕を広げて見せた。「おい、マクシム、お前身体がでかいんだからあんまりそうやるなよ」ガオシンはマクシムに言った。
サラはユエリャンのことが気になっていた。「ロプ湖が見つかるといいね…」他の3人は異口同音に、ゴチャゴチャと言ったが、タイヤンは最後に言った。「見つかるよ、さまよえる湖なんだろう?さまよっているってことは、以前動いたところでまた会えるってことだろう」
タイヤンはユエリャンのことをこの時、思い出した。「ユエリャンはどこにいるんだろうな」
ひとしきり雨が降った後、つかの間の晴れが訪れた。
テントの窓を開けたソラは喜んで外に出ていった。
「晴れた!晴れたぞ!」
サラも外に出て、頭をまた、あの出会った時のように布で覆い隠した。ソフィアが、ねえ、一曲演奏してよ、と2人に楽器を持っていった。
タイヤン、ガオシン、マクシムの3人は、その3人の後ろに大きな湖を見て、驚いたまま立ち尽くしていた。その遠くに、誰かがいて、それがユエリャンであることは、タイヤンとサラだけが気づいていた。
「とにかく」「これで最善の調査って奴ができるんだ」「やるべきことも整ってる。これを待ってた!」口々に言っては、それぞれやるべきことにゴソゴソと取りかかっていた。サラはタイヤンに言った。「湖のところに行ってちょうだい、ユエリャンがきっと待ってる」
「ユエリャンって誰?」
マクシムとソフィアが尋ねてきたが、「後で説明するから、今は自分のことをやって」と答えて、更に重ねて言った。「あんたはユエリャンのところに行きなさい、ユエリャンはずっと湖のそばにいるけど、たぶんそれは、この政情のバランスが崩れたらかなわない。でもユエリャンは一応重要人物なんだよ、殺されたりなんかでもしたら」「サラ、詳しく聞かせてくれないのか、あの子は何者なんだよ」「マクシムやソフィアの国では、貴族制度があるでしょう」「俺はそこまで知らないけど…とにかく、それでお察しくださいって訳か、くそっ、問いつめてやる」「そんな!」
タイヤンは走っていった。「おい、タイヤン!」「後で!」叫ぶガオシンに、タイヤンは言い訳もせずに走っていったのだった。
「タイヤン、しばらくぶり。今、忙しいのではないの?」
何事もなかったかのように素っ気ないユエリャンの声に、タイヤンは問い詰めようと近づいた。「マクシムたちのこと、気がついた?こちらに来れるように、私が少し動いたの」「ユエリャンは政治家か?」「いいえ」「じゃあ何だ?あんた何者だよ」「さあね、答える気は一切ないから自分の持ち場に戻りなさい」「俺を駒か何かだと思ってるのか?」ユエリャンは答えなかった。「そう思ってるんだな?自分が権力者の元にいる人間だからか?」
「逆」
白い肌の顔を出して、茶色の髪を風になびかせると、あの明るい緑色の瞳を大きく見開いて言った。
「せっかく晴れたのだから、そんなことを言っていないで、自分の好きなことをすればいいじゃない?」
緑色の瞳が、タイヤンのブラウンの瞳をのぞき込んだ。
「大したことじゃないよ、さあ行きなさい。」
タイヤンがその場を去ってしまうと、ユエリャンはため息をついた。「権力者、ねえ」ユエリャンの瞳には、もう別のものが映っていた。
マクシムの国と、タイヤンの国の間の国には、火種があった。水である。水は稀少であり、タイヤンの探している水脈が見つからなければすぐにも少数民族同士の対立は深まり、それは隣国の政府へと広がっていく。それをよしとしないタイヤンの国の政府は早いうちにと何か手を下すだろう。
タイヤンの国の政府は、既に砂漠を実験場にしたことがあった。その頃には規模があまり大きくなかったためまだ街が残っていた。タイヤンたちがここを訪れて間もなかった頃、地面を掘って出てきたものはその当時、強制的に立ち退きさせられ、そこに残されていたものだった。
「この様子だと、核実験か戦争か、何かしらまた起きるかもね」ユエリャンは髪をゆるくまとめて服の中へしまい、頭と顔を覆った。「そうしないための方策はタイヤンに任せたようなもの。どうして駒として見ることができるなんて思ったのかな」
最善の状態での調査は、順調に進んでいた。サラとソラは地理的知識を駆使し、マクシムとソフィアはコミュニケーションの問題を無くし、タイヤンとガオシンはその中心で調査を続けていた。日が昇り白い直射日光が現れる頃から、日が暮れて紫色の空が見えるまで、毎日続けられた。一日は毎日短く感じられ、時間は消えていった。
影響力
湖は、そっと、小さくなって眠るように動いていた。ユエリャンは街で暮らしていた。「外国人が2人、来る。私のもう一つの故郷から」
長い髪を揺らし、ユエリャンはレストランの2階バルコニーで夜の街を見つめていた。「どちらの故郷の人からも嫌われ者、よそ者扱いだもの。でも街は、どんな人も受け入れる。だから、価値がある。でも街は街だけで成立してるわけじゃない、そう仰いたいんでしょう、先生?」
ユエリャンが振り返る。そこには、サラとソラの先生がいた。
「長老は君に感謝している。しかし、外見の違う君を大いに受け入れることは、村の人々が許してくれない。長老は君を拒絶したわけではないんだよ、わかってくれるかい」
「何もかも遅いし、犠牲は戻らない。私はどちらでもあるし、どちらでもないんですよ」ユエリャンは一瞬目を伏せた。
「タイヤンの国も、マクシムの国も嫌いかい」
「大した違いはありませんね、外見を理由にして深くは受け入れない点ではね。おかげで私は宙ぶらりん。私がおもてに出ると都合が悪いから、先生たちに動いていただけるのはとても助かります。」
「君はそれでいいのかい」
「それしかないでしょう」
ユエリャンはテーブルに戻り、グラスを手に取った。
「感謝しています。私の考えに乗ってくださったこと」
「君の影響力はこの状況であっても強い。私は一介の教員に過ぎない。むしろ信頼してくれたことを私が感謝しなくてはならないだろうね」
2人はグラスを揺らして酒を飲み干した。
「私の目的に賛同してくださる方がいらっしゃることがどれだけ心強いことか。感謝申し上げます」
雨が降っている。タイヤンとガオシンのテントは雨季専用の頑丈なものに変わっていた。「これだけ雨が降っていれば、湖もすぐ現れるだろうな」ガオシンは本をパッケージに入れていた。「本がカビるのだけは勘弁だけどな!」
タイヤンはそう言った後、考えごとをしながら周囲を片づけていた。ずいぶん長いことユエリャンに会っていないので、タイヤンはユエリャンのことをすっかり忘れていた。それ以上に、サラやソラたちとの関係に悩むことが多く、ガオシンも少し気疲れしていた。サラはのんびりしていて、ソラは地元のことだからとはいえ多少神経質になっていた。どうすればその氷のような関わり方を変えることができるのか、わからなかった。結局、「お前たちは政府が公式に認める血統の人間だからな」と言わんばかりのソラに、困らされていたのだった。
雨の降りしきる中、馬のような動物の足音が聞こえた。4人は外に出た。あまりにも遠目で、タイヤンやガオシンにははっきりとは見えない。その時、ソラが言った。「外国人だな、白人だ。2人いる」ガオシンは多少警戒する様子で「もしかしたら、先生が送ってくださった人たちじゃないかな、でも何の連絡も無いし」とソラ。「私たちが来た時も、連絡をよこしてはくれなかったのでしょう?急いで送ってくれたのかもしれない」サラはそう言った。
陰は大きくなった。雨合羽を着た頑丈そうな陰と、それよりは少し小さな陰。すると、陰の後ろにいた人物が動物を連れて行ってしまった。大きな荷物を抱え、歩いてこちらに向かってくる。2つの大きな陰はこちらに向かって手を振った。
「よう、タイヤン、ガオシン、サラ、ソラの4人か?よろしくな、先生がこっちに来れるように手配してくれたんだ!」大きな明るい声で叫んでいた。軽く走ってきて、「俺はマクシム。でもレイフォンって別名も作ったことがある。そっちで呼んでくれてもいいよ!で、こっちがソフィア。困った時はニーナってクラスメイトも母国から手伝ってくれることになってる。」4人の顔を見て、マクシムは驚いた。「何だ?おまえたち。暗いな!もっと明るく迎えてくれよ、手助けだよ、まるで葬式だな!肉を持ってきたんだ、雨が落ち着いたら食おう」ソラが冷たく言った。「俺は、肉は食わない」「それも知ってるって!グルテンの肉も持ってきたんだ!俺、少しは気が利くだろ?」
タイヤンとガオシンがぼーっとマクシムを見ていた間、ソフィアはサラと話していた。「サラは楽器ができるって聞いたから、メンテナンスの道具を持ってきたの!長いことここにいるんだから、楽しくやらなきゃね!砂漠地帯だからってコスメを置いてこようと思ったんだけど、やっぱりい持ってきちゃったの」「それは持ってきて正解だと思うよ」「砂漠地帯に来るのは初めてだから、よくわからなくて先生に聞いたり調べたりした。でも…私たち、衛星携帯電話を持ってきたから、連絡手段は全部これで解決すると思うの!」
「えっ!」4人は驚いて、そして喜んだ。
「4人もいて普通の携帯電話も持ってなかったの?あれがあれば転送なんてできるよね?」タイヤンが言った。「値段が高すぎるよ、俺とガオシンはただの学生だし、サラとソラは地元の人で」ソラは続けて言った。「そんな収入なんてないよ」。
「ははあ、つまりそういうことか。俺たちをここに連れてきたのは、そういうお金の問題を補うためでもあったのか。ここのエリアは色々、政治的な問題があるとは思っていたけど」
ソフィアがふと思い出したように語った。「もう一つ問題があったね、あなたたち、長老と話があまりうまく噛み合っていなかったみたいだよね。語学、ちょっと苦手だったんじゃないの?まあ、確かに長老の言葉は不思議な言い回しをよく使う人だけど…」サラとソラは「あの長老の言葉をすんなり理解できるの?」と驚いた。「あなたたち地元の人じゃないの?」「民族が入り交じっているから、村が違うと言い回しが違うんだ。確かに文法は同じなんだけど、わからないことも多い」「そう。じゃあそこは私が解決することに。」ソフィアは目を閉じてそう言った。
協力者が増え、状況は刻一刻とよくなっているように感じられた。
湖は、そっと、小さくなって眠るように動いていた。ユエリャンは街で暮らしていた。「外国人が2人、来る。私のもう一つの故郷から」
長い髪を揺らし、ユエリャンはレストランの2階バルコニーで夜の街を見つめていた。「どちらの故郷の人からも嫌われ者、よそ者扱いだもの。でも街は、どんな人も受け入れる。だから、価値がある。でも街は街だけで成立してるわけじゃない、そう仰いたいんでしょう、先生?」
ユエリャンが振り返る。そこには、サラとソラの先生がいた。
「長老は君に感謝している。しかし、外見の違う君を大いに受け入れることは、村の人々が許してくれない。長老は君を拒絶したわけではないんだよ、わかってくれるかい」
「何もかも遅いし、犠牲は戻らない。私はどちらでもあるし、どちらでもないんですよ」ユエリャンは一瞬目を伏せた。
「タイヤンの国も、マクシムの国も嫌いかい」
「大した違いはありませんね、外見を理由にして深くは受け入れない点ではね。おかげで私は宙ぶらりん。私がおもてに出ると都合が悪いから、先生たちに動いていただけるのはとても助かります。」
「君はそれでいいのかい」
「それしかないでしょう」
ユエリャンはテーブルに戻り、グラスを手に取った。
「感謝しています。私の考えに乗ってくださったこと」
「君の影響力はこの状況であっても強い。私は一介の教員に過ぎない。むしろ信頼してくれたことを私が感謝しなくてはならないだろうね」
2人はグラスを揺らして酒を飲み干した。
「私の目的に賛同してくださる方がいらっしゃることがどれだけ心強いことか。感謝申し上げます」
雨が降っている。タイヤンとガオシンのテントは雨季専用の頑丈なものに変わっていた。「これだけ雨が降っていれば、湖もすぐ現れるだろうな」ガオシンは本をパッケージに入れていた。「本がカビるのだけは勘弁だけどな!」
タイヤンはそう言った後、考えごとをしながら周囲を片づけていた。ずいぶん長いことユエリャンに会っていないので、タイヤンはユエリャンのことをすっかり忘れていた。それ以上に、サラやソラたちとの関係に悩むことが多く、ガオシンも少し気疲れしていた。サラはのんびりしていて、ソラは地元のことだからとはいえ多少神経質になっていた。どうすればその氷のような関わり方を変えることができるのか、わからなかった。結局、「お前たちは政府が公式に認める血統の人間だからな」と言わんばかりのソラに、困らされていたのだった。
雨の降りしきる中、馬のような動物の足音が聞こえた。4人は外に出た。あまりにも遠目で、タイヤンやガオシンにははっきりとは見えない。その時、ソラが言った。「外国人だな、白人だ。2人いる」ガオシンは多少警戒する様子で「もしかしたら、先生が送ってくださった人たちじゃないかな、でも何の連絡も無いし」とソラ。「私たちが来た時も、連絡をよこしてはくれなかったのでしょう?急いで送ってくれたのかもしれない」サラはそう言った。
陰は大きくなった。雨合羽を着た頑丈そうな陰と、それよりは少し小さな陰。すると、陰の後ろにいた人物が動物を連れて行ってしまった。大きな荷物を抱え、歩いてこちらに向かってくる。2つの大きな陰はこちらに向かって手を振った。
「よう、タイヤン、ガオシン、サラ、ソラの4人か?よろしくな、先生がこっちに来れるように手配してくれたんだ!」大きな明るい声で叫んでいた。軽く走ってきて、「俺はマクシム。でもレイフォンって別名も作ったことがある。そっちで呼んでくれてもいいよ!で、こっちがソフィア。困った時はニーナってクラスメイトも母国から手伝ってくれることになってる。」4人の顔を見て、マクシムは驚いた。「何だ?おまえたち。暗いな!もっと明るく迎えてくれよ、手助けだよ、まるで葬式だな!肉を持ってきたんだ、雨が落ち着いたら食おう」ソラが冷たく言った。「俺は、肉は食わない」「それも知ってるって!グルテンの肉も持ってきたんだ!俺、少しは気が利くだろ?」
タイヤンとガオシンがぼーっとマクシムを見ていた間、ソフィアはサラと話していた。「サラは楽器ができるって聞いたから、メンテナンスの道具を持ってきたの!長いことここにいるんだから、楽しくやらなきゃね!砂漠地帯だからってコスメを置いてこようと思ったんだけど、やっぱりい持ってきちゃったの」「それは持ってきて正解だと思うよ」「砂漠地帯に来るのは初めてだから、よくわからなくて先生に聞いたり調べたりした。でも…私たち、衛星携帯電話を持ってきたから、連絡手段は全部これで解決すると思うの!」
「えっ!」4人は驚いて、そして喜んだ。
「4人もいて普通の携帯電話も持ってなかったの?あれがあれば転送なんてできるよね?」タイヤンが言った。「値段が高すぎるよ、俺とガオシンはただの学生だし、サラとソラは地元の人で」ソラは続けて言った。「そんな収入なんてないよ」。
「ははあ、つまりそういうことか。俺たちをここに連れてきたのは、そういうお金の問題を補うためでもあったのか。ここのエリアは色々、政治的な問題があるとは思っていたけど」
ソフィアがふと思い出したように語った。「もう一つ問題があったね、あなたたち、長老と話があまりうまく噛み合っていなかったみたいだよね。語学、ちょっと苦手だったんじゃないの?まあ、確かに長老の言葉は不思議な言い回しをよく使う人だけど…」サラとソラは「あの長老の言葉をすんなり理解できるの?」と驚いた。「あなたたち地元の人じゃないの?」「民族が入り交じっているから、村が違うと言い回しが違うんだ。確かに文法は同じなんだけど、わからないことも多い」「そう。じゃあそこは私が解決することに。」ソフィアは目を閉じてそう言った。
協力者が増え、状況は刻一刻とよくなっているように感じられた。
この小さな物語は、かつて親友に宛てたものです。親友は健康なからだではなかったから外国に連れていくことはできないかもしれないと思っていたけれども諦めきれずに書いたものでした。はかない夢を見せてやりたい、と思いながら拙いものを書きました。しかし彼女亡き今考えると、夢を見せてよいものか、却って苦しいのではないかと感じています。彼女にとって、誰かにとってよいものでありますように。