No.21, No.20, No.19, No.18, No.17, No.16, No.15[7件]
それぞれ
朝6時。ガオシンは朝の祈りを捧げ、まだ眠っているタイヤンを起こした。「おい、もうお前のアラーム鳴ってるぞ」「ガオシン、起きたよ」「おう、さっさと顔拭いて来いよ」
「おはよう、今日も暑くなりそうだね」コットンに水を含ませて顔を拭いていたタイヤンは、警戒心を持った。顔を隠していたからだった。「悪いね、肌を焼くのは僕たちの好みじゃないんだ」顔周りだけ布を外したその人物は名乗った。「僕はソラ。こっちは、サラ。君たちは随分朝早くから動いているんだね」
サラも顔周りの布をゆるめて顔を見せた。「ユエリャン…?」タイヤンはつい彼女の名前を口にした。とても似ていたのだった。「よく似てるって言われるから、気にしないで」しかし、肌の色は黄色人種であり、目の色はユエリャンに似てはいたものの、緑がかったブラウンだった。「ユエリャンとは知り合いなのかい?」
ガオシンはいつまでも戻ってこないタイヤンを呼ぼうとした。
「タイヤン!早く戻って来いよ!あ?…その2人は?」
「いや、まだ用事は聞いてないよ。ただ、突然来たんだ」
「長老から何も聞いてない?僕たちは手伝いに来たんだ。水質調査と地層、地質調査のね」ソラは笑顔で言った。
「君たちが?ずいぶん若いんだね、ここの地元の人?」
ガオシンは驚いてそう言った。サラはともかく、ソラはかなり幼い印象だった。
「僕はね、ここの出身だけど、サラは見ての通り違うよ。」ソラは元のように顔を隠した。日を浴びるのが相当嫌いなようだった。
ガオシンはふと、ユエリャンを思い出して言った。
「ユエリャン…彼女は人間なのか?」
ソラは慌てて言った。
「おいおい、こんな時にいきなり人種差別かい?」
サラは再び顔を布で覆いながら、重ねて言った。
「彼女に再会することがあれば、本人に深く訊くといいと思うけど、そんな言い方では何も話してくれないでしょうね」
ガオシンは、「いや、あまりにも…うちのタイヤンは不思議な出会い方をしたらしいからね」サラは目を伏せて、「そうかもしれないね、ユエリャンのことを知らないと、本当にただの不思議な人、いいや、人としてさえ不思議な風にしか見えないだろうから」
サラは付け加えて言った。彼女は外見はああだけど、二つの故郷を大事に思っているからこそここにいる、と。
ガオシンはサラに尋ねた。「あのさ、俺たちだって、ここを大事に思っているさ。それはわかるよね?研究のためだけじゃない、政治のためでもない、自分のためにここを大事にしてるんだ」
ソラが、サラの代わりに答えた。
「それは、人に利用されても目的が果たされれば何が起きても構わないってことかな」
「どういうことだ?」タイヤンが口を出した。「誰かに利用されるってことか?」
「わかってないね、タイヤンもガオシンも、そしてユエリャンも僕たちも、それぞれ所属してる政府ってものがあるだろう。それが…」サラがソラの発言を止めた。「ある程度の犠牲は何にも付き物だよ、ソラ。この話はきれいなものじゃない。わかってちょうだい」ソラはむくれてあっちを向いた。
「政治的に停滞しているって言いたいんだろう?それは知ってるよ。情報をすぐに手に入れられる状態じゃない自分たちがふとしたことで犠牲になる可能性だって考えてる。」タイヤンは、はっきり言った。「それでもさ、水脈を見つけて、政治の利害関係よりここの利益を何とかしたいんだよ。俺の母方のずっと昔の血筋はここに由来することが、随分前にわかってね。俺はここと繋がってるんだよ。」
「でも、それで子孫の命が犠牲になっちゃしょうがないだろう?」ソラが続けて冷たい言葉を放った。「人の命ってのは、この国じゃ政府からの預かりものだ、しかも他の国だって似たようなことをやってるじゃないか。道具として扱っている奴が近くにいるってわかっててそれをやってるのか」
タイヤンはソラに飛びかかって殴った。「この馬鹿野郎、これ以上何が言いたい?人を見下すだけ見下して、その女にくっついて歩いて---」ソラもその言葉を聞いて、タイヤンに一発くれてやった。「いい加減にしろ!これは僕の選択だ!」
ガオシンとサラが、タイヤンとソラを離した。
タイヤンは言った。「サラとソラの関係は?どういう経緯があってここに来た?それを答えてみろ」
「ユエリャンのお願いでここに来たんだ。そして、私たちはきょうだいでもないし、恋人でもない。ただ、お国も民族も嫌になった同士の仲間さ…」サラは、ただそう言って、仲間を増やすのがいやならユエリャンをがっかりさせることになる、とも言った。「ユエリャンのことは嫌いかい?」「いいや。別に」
「先生から話は聞いてるよ。」
サラの言葉にハッとして、タイヤンとガオシンは2人を見た。「何だって?」次は、ソラが言った。
「先生はここの人数を増やすんだろ。協力したい」
4人は、昼になるまで地面を掘ったり、そこから出てくる「古いもの」を片づけたりしながら多少の会話を続けた。
「君たちの先生は、僕たちの先生の師匠らしくてね。教育を受けるのが難しかったこのエリアでは相当お世話になったらしくてね」ソラが語る。「そういえば、うちの先生は、数年街を離れて、都市部から砂漠地帯に教育のためにインターンをするシステムを作ったと言っていた」ガオシンは興味深そうにそう言った。「利用するというのは、悪用することとは違う。さっきは悪かったな、タイヤン」タイヤンは突然話を振られて、奇妙な気分になっていた。「うん、まあこっちも悪かったよ。…でも、悪用する奴がいたとしても、ここのためになるなら」
「それは違う、湖のためになるなら、って話だよ。タイヤンは水脈のことばかり考えているが、それは違う。ここに必要なのは、生活することだけじゃないんだ」「どういうことだ?」タイヤンとガオシンは手を止めた。
「僕たち砂漠地域の人間にとって、必要なのは援助だけじゃない、商売道具が必要だ。それは、ロプ湖の--」
「よりよい塩、か」ガオシンが口を挟むと、サラとソラは目を見開いて頷いた。
「話はわかった。…ところで、その荷物」
「ああ、これはね 楽器。傷んでも構わないものを持ってきただけだから、気にしないで」サラは何気なく言ったつもりだったが、ガオシンは少し異様なものを見たかのような表情になった。
「ま、お近づきのしるしに、一曲いきますか」
ソラは帽子をかぶり、一音、軽く吹いた。そして、顔だけ出したサラと視線をちらりと合わせ、「Cheek to Cheek」が始まった。
ソラの演奏が遠くに流れていく。サラの声が遠くに届いている。遠くにいる人がこちらに目をやっては、手を叩いては一緒に歌っている。
「さて、レイフォンの方はどうなっていますかね」
「まったくの外国出身者を呼ぶというのは、なかなかに難しい状況ですよ。しかし彼らは元貴族だ。キャッシュの問題も、政治的な重石としても比較的いい条件です。今、まだ返事を待っているところです。しかたがありません。」薄汚れた受話器を持って、サラたちの「先生」は答えた。「いい返事を、待っているよ。とてもいい返事をね」
「雷風: Maksim」と書かれた書類を手に持って、サラたちの「先生」は静かに笑っていた。
その時。マクシムは、大量の本を運んでいた。Maksim、と名前の書かれたノートを、クラスメイトとおぼしき女性に渡していた。「ねえ、課題を見せてくれるのはありがたいんだけどさ、あの砂漠に行くって本気?確かにマクシムは南部出身だから暑いのは平気だとは思うけど、大丈夫?しかも、一人で?」「いいや、俺一人ではないよ。」言語学の本を一冊、図書館の机にできた山から取り出すと目を大きく見開いてこういった。「パートナーをひとり連れていくんだ」「へえ、やっぱ彼女連れていくの?」「そのつもりだよ、Sofiaは最高に頭がいいからね」
「マクシム!もうビザの問題は解決したの?」「ソフィア、あなたも砂漠に行くの?」「そうだよ、こんな機会はなかなか得られないと思うからね。しばらくは、化粧もファッションも諦めなきゃいけないけどね。ニーナ、あなたともしばらくお別れ。」「寂しいね、でもうまくいくように祈ってる!」ニーナとソフィアは軽く抱き合った。
「ところで出発はいつ?」ニーナが尋ね、マクシムが答えた。「乾期が冬だっていうから、それが過ぎたら行かなくてはならないな」「あっと言う間だね、じゃあ春にはもういないのね」ソフィアが答えた。「そうね、水脈がどうとか言ってたから、乾期が過ぎないと川も現れないでしょう、湖もね」
朝6時。ガオシンは朝の祈りを捧げ、まだ眠っているタイヤンを起こした。「おい、もうお前のアラーム鳴ってるぞ」「ガオシン、起きたよ」「おう、さっさと顔拭いて来いよ」
「おはよう、今日も暑くなりそうだね」コットンに水を含ませて顔を拭いていたタイヤンは、警戒心を持った。顔を隠していたからだった。「悪いね、肌を焼くのは僕たちの好みじゃないんだ」顔周りだけ布を外したその人物は名乗った。「僕はソラ。こっちは、サラ。君たちは随分朝早くから動いているんだね」
サラも顔周りの布をゆるめて顔を見せた。「ユエリャン…?」タイヤンはつい彼女の名前を口にした。とても似ていたのだった。「よく似てるって言われるから、気にしないで」しかし、肌の色は黄色人種であり、目の色はユエリャンに似てはいたものの、緑がかったブラウンだった。「ユエリャンとは知り合いなのかい?」
ガオシンはいつまでも戻ってこないタイヤンを呼ぼうとした。
「タイヤン!早く戻って来いよ!あ?…その2人は?」
「いや、まだ用事は聞いてないよ。ただ、突然来たんだ」
「長老から何も聞いてない?僕たちは手伝いに来たんだ。水質調査と地層、地質調査のね」ソラは笑顔で言った。
「君たちが?ずいぶん若いんだね、ここの地元の人?」
ガオシンは驚いてそう言った。サラはともかく、ソラはかなり幼い印象だった。
「僕はね、ここの出身だけど、サラは見ての通り違うよ。」ソラは元のように顔を隠した。日を浴びるのが相当嫌いなようだった。
ガオシンはふと、ユエリャンを思い出して言った。
「ユエリャン…彼女は人間なのか?」
ソラは慌てて言った。
「おいおい、こんな時にいきなり人種差別かい?」
サラは再び顔を布で覆いながら、重ねて言った。
「彼女に再会することがあれば、本人に深く訊くといいと思うけど、そんな言い方では何も話してくれないでしょうね」
ガオシンは、「いや、あまりにも…うちのタイヤンは不思議な出会い方をしたらしいからね」サラは目を伏せて、「そうかもしれないね、ユエリャンのことを知らないと、本当にただの不思議な人、いいや、人としてさえ不思議な風にしか見えないだろうから」
サラは付け加えて言った。彼女は外見はああだけど、二つの故郷を大事に思っているからこそここにいる、と。
ガオシンはサラに尋ねた。「あのさ、俺たちだって、ここを大事に思っているさ。それはわかるよね?研究のためだけじゃない、政治のためでもない、自分のためにここを大事にしてるんだ」
ソラが、サラの代わりに答えた。
「それは、人に利用されても目的が果たされれば何が起きても構わないってことかな」
「どういうことだ?」タイヤンが口を出した。「誰かに利用されるってことか?」
「わかってないね、タイヤンもガオシンも、そしてユエリャンも僕たちも、それぞれ所属してる政府ってものがあるだろう。それが…」サラがソラの発言を止めた。「ある程度の犠牲は何にも付き物だよ、ソラ。この話はきれいなものじゃない。わかってちょうだい」ソラはむくれてあっちを向いた。
「政治的に停滞しているって言いたいんだろう?それは知ってるよ。情報をすぐに手に入れられる状態じゃない自分たちがふとしたことで犠牲になる可能性だって考えてる。」タイヤンは、はっきり言った。「それでもさ、水脈を見つけて、政治の利害関係よりここの利益を何とかしたいんだよ。俺の母方のずっと昔の血筋はここに由来することが、随分前にわかってね。俺はここと繋がってるんだよ。」
「でも、それで子孫の命が犠牲になっちゃしょうがないだろう?」ソラが続けて冷たい言葉を放った。「人の命ってのは、この国じゃ政府からの預かりものだ、しかも他の国だって似たようなことをやってるじゃないか。道具として扱っている奴が近くにいるってわかっててそれをやってるのか」
タイヤンはソラに飛びかかって殴った。「この馬鹿野郎、これ以上何が言いたい?人を見下すだけ見下して、その女にくっついて歩いて---」ソラもその言葉を聞いて、タイヤンに一発くれてやった。「いい加減にしろ!これは僕の選択だ!」
ガオシンとサラが、タイヤンとソラを離した。
タイヤンは言った。「サラとソラの関係は?どういう経緯があってここに来た?それを答えてみろ」
「ユエリャンのお願いでここに来たんだ。そして、私たちはきょうだいでもないし、恋人でもない。ただ、お国も民族も嫌になった同士の仲間さ…」サラは、ただそう言って、仲間を増やすのがいやならユエリャンをがっかりさせることになる、とも言った。「ユエリャンのことは嫌いかい?」「いいや。別に」
「先生から話は聞いてるよ。」
サラの言葉にハッとして、タイヤンとガオシンは2人を見た。「何だって?」次は、ソラが言った。
「先生はここの人数を増やすんだろ。協力したい」
4人は、昼になるまで地面を掘ったり、そこから出てくる「古いもの」を片づけたりしながら多少の会話を続けた。
「君たちの先生は、僕たちの先生の師匠らしくてね。教育を受けるのが難しかったこのエリアでは相当お世話になったらしくてね」ソラが語る。「そういえば、うちの先生は、数年街を離れて、都市部から砂漠地帯に教育のためにインターンをするシステムを作ったと言っていた」ガオシンは興味深そうにそう言った。「利用するというのは、悪用することとは違う。さっきは悪かったな、タイヤン」タイヤンは突然話を振られて、奇妙な気分になっていた。「うん、まあこっちも悪かったよ。…でも、悪用する奴がいたとしても、ここのためになるなら」
「それは違う、湖のためになるなら、って話だよ。タイヤンは水脈のことばかり考えているが、それは違う。ここに必要なのは、生活することだけじゃないんだ」「どういうことだ?」タイヤンとガオシンは手を止めた。
「僕たち砂漠地域の人間にとって、必要なのは援助だけじゃない、商売道具が必要だ。それは、ロプ湖の--」
「よりよい塩、か」ガオシンが口を挟むと、サラとソラは目を見開いて頷いた。
「話はわかった。…ところで、その荷物」
「ああ、これはね 楽器。傷んでも構わないものを持ってきただけだから、気にしないで」サラは何気なく言ったつもりだったが、ガオシンは少し異様なものを見たかのような表情になった。
「ま、お近づきのしるしに、一曲いきますか」
ソラは帽子をかぶり、一音、軽く吹いた。そして、顔だけ出したサラと視線をちらりと合わせ、「Cheek to Cheek」が始まった。
ソラの演奏が遠くに流れていく。サラの声が遠くに届いている。遠くにいる人がこちらに目をやっては、手を叩いては一緒に歌っている。
「さて、レイフォンの方はどうなっていますかね」
「まったくの外国出身者を呼ぶというのは、なかなかに難しい状況ですよ。しかし彼らは元貴族だ。キャッシュの問題も、政治的な重石としても比較的いい条件です。今、まだ返事を待っているところです。しかたがありません。」薄汚れた受話器を持って、サラたちの「先生」は答えた。「いい返事を、待っているよ。とてもいい返事をね」
「雷風: Maksim」と書かれた書類を手に持って、サラたちの「先生」は静かに笑っていた。
その時。マクシムは、大量の本を運んでいた。Maksim、と名前の書かれたノートを、クラスメイトとおぼしき女性に渡していた。「ねえ、課題を見せてくれるのはありがたいんだけどさ、あの砂漠に行くって本気?確かにマクシムは南部出身だから暑いのは平気だとは思うけど、大丈夫?しかも、一人で?」「いいや、俺一人ではないよ。」言語学の本を一冊、図書館の机にできた山から取り出すと目を大きく見開いてこういった。「パートナーをひとり連れていくんだ」「へえ、やっぱ彼女連れていくの?」「そのつもりだよ、Sofiaは最高に頭がいいからね」
「マクシム!もうビザの問題は解決したの?」「ソフィア、あなたも砂漠に行くの?」「そうだよ、こんな機会はなかなか得られないと思うからね。しばらくは、化粧もファッションも諦めなきゃいけないけどね。ニーナ、あなたともしばらくお別れ。」「寂しいね、でもうまくいくように祈ってる!」ニーナとソフィアは軽く抱き合った。
「ところで出発はいつ?」ニーナが尋ね、マクシムが答えた。「乾期が冬だっていうから、それが過ぎたら行かなくてはならないな」「あっと言う間だね、じゃあ春にはもういないのね」ソフィアが答えた。「そうね、水脈がどうとか言ってたから、乾期が過ぎないと川も現れないでしょう、湖もね」
夢見の悪さ
ユエリャンはそのまま人の海の中へ消えていった。
「おい、あの人ほっといていいのか?けっこう美人じゃん、いったいどうやってお前に話しかけてくる気になったのか知らないけどさ、追いかけた方が」
「いいんだ、もうちょっと訊きたいことがあったけど教えてくれなさそうだから」
「彼女の気持ちでも気になったのか?」
「そういうのじゃないよ」
タイヤンはガオシンのそういうところが好かなかった。ただ、「追いかけた方がよかったのだろうか」という点についてだけは、よくわからなかったのだった。独りでこんな夜の訪れた乾いた街を歩いて、ユエリャンにとって何の意味があったのか、よくわからなかったからだった。そして、ロプ湖のそばであった時とは違って、現代的な服装に華やかな化粧を施した雰囲気が、まるで同一人物には見えないのだった。あの女性は本当にユエリャンだったのだろうか。
ユエリャンはカフェに入って、アイリッシュコーヒーを飲んでいた。グラスにゆるく溶けた濃い口紅を指で拭き取りながら、ワインを見つめる他の女性と語っていた。「サラ、あなたはこの砂漠のことが気にかかっているようだけど、具体的に何か行動に移すつもりは?」
「今のところは、そうだね…先生のお仲間に入れてもらって、水源と地質の調査をやらせてもらうつもり。私という立場の人間が一人でも入っていれば、多少重しにはなるでしょう」ユエリャンは答えた。「あなたは身軽だから、重しにはちょっと足りないんじゃないかな」
「もう一人、来る予定があるの。かわいい弟。彼も比較的大事な立場にあるからなかなかの追加にはなるんじゃないかと思ってはいるけど。さすがに先生も私一人じゃ足りないと仰るでしょうからね。彼を推薦しようと思ってる」
ユエリャンはまた一口飲んで言った。「ソラのことだね。確かに彼の知識量と政治的なつながりは強みになる。うん、でもさ、あなたは、歌をやめるつもり?ソラも、楽器をやめるの?やめるのはとても惜しいと思うよ」
「しかたないでしょう、あなたの気になっている想いびとのために動いてみせる」「私が彼と結ばれると、思う?」「いいえ、残念ながら私たちと同じ」ユエリャンは言った。「それは、正しい認識。間違ってはない」
「私たちは、良し悪しの世界で生きてる訳じゃあないからね」ユエリャンとサラは同じ言葉を同じイントネーションで重ねて口にして、冷たく笑った。
サラは上着を脱いで、ゆらゆらと長いスカートを揺らしながら、バックミュージックの演奏に合わせて歌を歌って見せた。お客たちは喜んで手を叩き、右手を揃えて挙げた。そして、サラは同じように右手を挙げ、彼らと手を叩いて踊って見せた。
この街の笑顔は確かに愉しく、涼やかな夜にふさわしく賑やかだった。
「サラ!俺の演奏なしに踊るなんてひどいよ!」 髪を短く切りそろえた少年が走ってサラのところに来たのだった。背中には、新しいものと思われる楽器が背負われていた。
「だって、せっかくこの楽しい日曜日にアルコールを飲んでいるのに、楽しく過ごさないなんてもったいないでしょ?さあ、ソラ、早く一曲やってちょうだい」「もちろん!サラ、歌っちゃったんだったら、次は一緒に演奏してよ」ソラは、手にまた他の楽器を持っていた。「こんな砂漠地帯で演奏なんて、僕たちの大事な楽器にはさせられないよ。他のものを持ってくるに決まっているだろう?」
ユエリャンは、大人びたサラと、子どもっぽいソラの話を黙って聞いていた。表面的には対照的だけれども、この2人の愛するものは同じなのだった。「私とタイヤンも、この2人と同じ」
サラとソラの演奏が始まり、静けさがその場を支配した。しかし、途中から2人は目配せし、音楽は転調を繰り返し、聴衆は大いに叫んだ。「この砂漠に水を!水を!水を!」
みな、この街を大事にしていた。酒飲みで、大食らいに、かつ強気の商人として動いてはこの夜のカーテンにくるまれて、そうやって、疲れを寝床に置いて、また朝を迎えるのだった。広がり続ける砂漠は、街を飲み込み始めていたため、みな商業で生きていく必要があった。
「ああ、楽しい。この街には価値があると私は思う」
「そう、そうしよう」
「そうしましょう、ソラ、一緒に先生たちと調査をしましょう」
「いいよ、サラがそうしたいなら」
ユエリャンのアイリッシュコーヒーは、2杯目が出されていた。彼女は口紅を塗り直し、2人を見て微笑み、立ち上がってジャケットを脱ぎ、帽子を外した。見た目にはこの土地の人間ではないが、誰も指摘する人はいなかった。
ユエリャンは、アカペラで「月亮代表我的心」を歌った。
それに合わせて、2人は控えめに演奏していた。
時間は、ゆっくりと、確かに過ぎていた。
この時、タイヤンは既に眠りにつき夢を見ていた。激しいスコールが降った後の、月の明るい夜の夢を。幼いタイヤンは緑の森の中を、静かに歩いている。同じ方向に多くの人が歩いている。誰かが、何かを落としていった。タイヤンが手に取ったのは、赤いリップスティックだった。ブラウンの上着を着た女性のポケットから落ちたのを見ていたタイヤンは、「ちょっと!止まって!」と甲高く叫んだ。しかしその女性は振り返らない。しばらくしてその女性が振り返った瞬間、場面が狂ったように変わって、タイヤンは背中を下にして水の中に押し込まれていた。息ができない、と暴れる。だが、その両手はタイヤンの胸を押さえつけ、離してくれない。さらに暴れるタイヤン。「助けてくれ、死にたくない」
「おい!どうしたんだよ!」
ガオシンの声が遠くから聞こえた。そうか、これは、夢だ。
ガオシンの冷たくなった手がタイヤンの顔を軽くひっぱたいた。タイヤンは、この時に何の夢を見たのか、忘れてしまった。
ランプが灯されていた。「お前、街に行って疲れたか?」ガオシンが右手の腕時計を見て言った。寝袋の留め具は外されていた。「まだ、夜中の1時だぞ。着替えてもう一回朝までちゃんと寝ておけよ。本当に、ここは砂漠なんだからな、疲れをためていちゃ、体が持たない」ガオシンはサソリ対策に使っている網のファスナーを戻し、背中を向けた。
夢の内容すらも、何も覚えていないタイヤンは、着替えを済ませた後砂漠の真夜中独特の空気の冷たさのためにだるさを感じた。ランプを消し、すぐに寝入ってしまった。
ユエリャンはそのまま人の海の中へ消えていった。
「おい、あの人ほっといていいのか?けっこう美人じゃん、いったいどうやってお前に話しかけてくる気になったのか知らないけどさ、追いかけた方が」
「いいんだ、もうちょっと訊きたいことがあったけど教えてくれなさそうだから」
「彼女の気持ちでも気になったのか?」
「そういうのじゃないよ」
タイヤンはガオシンのそういうところが好かなかった。ただ、「追いかけた方がよかったのだろうか」という点についてだけは、よくわからなかったのだった。独りでこんな夜の訪れた乾いた街を歩いて、ユエリャンにとって何の意味があったのか、よくわからなかったからだった。そして、ロプ湖のそばであった時とは違って、現代的な服装に華やかな化粧を施した雰囲気が、まるで同一人物には見えないのだった。あの女性は本当にユエリャンだったのだろうか。
ユエリャンはカフェに入って、アイリッシュコーヒーを飲んでいた。グラスにゆるく溶けた濃い口紅を指で拭き取りながら、ワインを見つめる他の女性と語っていた。「サラ、あなたはこの砂漠のことが気にかかっているようだけど、具体的に何か行動に移すつもりは?」
「今のところは、そうだね…先生のお仲間に入れてもらって、水源と地質の調査をやらせてもらうつもり。私という立場の人間が一人でも入っていれば、多少重しにはなるでしょう」ユエリャンは答えた。「あなたは身軽だから、重しにはちょっと足りないんじゃないかな」
「もう一人、来る予定があるの。かわいい弟。彼も比較的大事な立場にあるからなかなかの追加にはなるんじゃないかと思ってはいるけど。さすがに先生も私一人じゃ足りないと仰るでしょうからね。彼を推薦しようと思ってる」
ユエリャンはまた一口飲んで言った。「ソラのことだね。確かに彼の知識量と政治的なつながりは強みになる。うん、でもさ、あなたは、歌をやめるつもり?ソラも、楽器をやめるの?やめるのはとても惜しいと思うよ」
「しかたないでしょう、あなたの気になっている想いびとのために動いてみせる」「私が彼と結ばれると、思う?」「いいえ、残念ながら私たちと同じ」ユエリャンは言った。「それは、正しい認識。間違ってはない」
「私たちは、良し悪しの世界で生きてる訳じゃあないからね」ユエリャンとサラは同じ言葉を同じイントネーションで重ねて口にして、冷たく笑った。
サラは上着を脱いで、ゆらゆらと長いスカートを揺らしながら、バックミュージックの演奏に合わせて歌を歌って見せた。お客たちは喜んで手を叩き、右手を揃えて挙げた。そして、サラは同じように右手を挙げ、彼らと手を叩いて踊って見せた。
この街の笑顔は確かに愉しく、涼やかな夜にふさわしく賑やかだった。
「サラ!俺の演奏なしに踊るなんてひどいよ!」 髪を短く切りそろえた少年が走ってサラのところに来たのだった。背中には、新しいものと思われる楽器が背負われていた。
「だって、せっかくこの楽しい日曜日にアルコールを飲んでいるのに、楽しく過ごさないなんてもったいないでしょ?さあ、ソラ、早く一曲やってちょうだい」「もちろん!サラ、歌っちゃったんだったら、次は一緒に演奏してよ」ソラは、手にまた他の楽器を持っていた。「こんな砂漠地帯で演奏なんて、僕たちの大事な楽器にはさせられないよ。他のものを持ってくるに決まっているだろう?」
ユエリャンは、大人びたサラと、子どもっぽいソラの話を黙って聞いていた。表面的には対照的だけれども、この2人の愛するものは同じなのだった。「私とタイヤンも、この2人と同じ」
サラとソラの演奏が始まり、静けさがその場を支配した。しかし、途中から2人は目配せし、音楽は転調を繰り返し、聴衆は大いに叫んだ。「この砂漠に水を!水を!水を!」
みな、この街を大事にしていた。酒飲みで、大食らいに、かつ強気の商人として動いてはこの夜のカーテンにくるまれて、そうやって、疲れを寝床に置いて、また朝を迎えるのだった。広がり続ける砂漠は、街を飲み込み始めていたため、みな商業で生きていく必要があった。
「ああ、楽しい。この街には価値があると私は思う」
「そう、そうしよう」
「そうしましょう、ソラ、一緒に先生たちと調査をしましょう」
「いいよ、サラがそうしたいなら」
ユエリャンのアイリッシュコーヒーは、2杯目が出されていた。彼女は口紅を塗り直し、2人を見て微笑み、立ち上がってジャケットを脱ぎ、帽子を外した。見た目にはこの土地の人間ではないが、誰も指摘する人はいなかった。
ユエリャンは、アカペラで「月亮代表我的心」を歌った。
それに合わせて、2人は控えめに演奏していた。
時間は、ゆっくりと、確かに過ぎていた。
この時、タイヤンは既に眠りにつき夢を見ていた。激しいスコールが降った後の、月の明るい夜の夢を。幼いタイヤンは緑の森の中を、静かに歩いている。同じ方向に多くの人が歩いている。誰かが、何かを落としていった。タイヤンが手に取ったのは、赤いリップスティックだった。ブラウンの上着を着た女性のポケットから落ちたのを見ていたタイヤンは、「ちょっと!止まって!」と甲高く叫んだ。しかしその女性は振り返らない。しばらくしてその女性が振り返った瞬間、場面が狂ったように変わって、タイヤンは背中を下にして水の中に押し込まれていた。息ができない、と暴れる。だが、その両手はタイヤンの胸を押さえつけ、離してくれない。さらに暴れるタイヤン。「助けてくれ、死にたくない」
「おい!どうしたんだよ!」
ガオシンの声が遠くから聞こえた。そうか、これは、夢だ。
ガオシンの冷たくなった手がタイヤンの顔を軽くひっぱたいた。タイヤンは、この時に何の夢を見たのか、忘れてしまった。
ランプが灯されていた。「お前、街に行って疲れたか?」ガオシンが右手の腕時計を見て言った。寝袋の留め具は外されていた。「まだ、夜中の1時だぞ。着替えてもう一回朝までちゃんと寝ておけよ。本当に、ここは砂漠なんだからな、疲れをためていちゃ、体が持たない」ガオシンはサソリ対策に使っている網のファスナーを戻し、背中を向けた。
夢の内容すらも、何も覚えていないタイヤンは、着替えを済ませた後砂漠の真夜中独特の空気の冷たさのためにだるさを感じた。ランプを消し、すぐに寝入ってしまった。
「先生」
「人が足りない」
3人はしかめっ面でそれぞれ腕を組んで考え込んでしまった。
「ええ、今のままでは湖をすぐに見失ってしまいます。遠方で連絡を取って動けるチームが他に2つは要るでしょう」
長老とタイヤンは、今回見失ったことでかなりの落胆を抱えていた。「先生に頼めることは頼んできたんだ」
長老は押し黙った。そこで、ガオシンは口を挟んだ。
「タイヤン、俺だって核を使われるかもしれないリスクを見越して家族に遺言を置いてきているんだよ、他にここに来てくれる奴なんてなかなかいないって」ガオシンはタイヤンをいさめるつもりで言った。 「俺たちをここに呼んだ、先生に相談するしかないと思っているんだ」タイヤンは具体的に話をするしかなかった。ガオシンは比較的ポジティブだが、こういった場合には具体的でなければ納得のしようがなかった。
「先生に?まあ…そうだな。とりあえず、話を聞いてもらう相手としてはまず間違ってはいないな」
タイヤンとガオシンは街に出た。先生に電話をかけるためだった。今回はガオシンが話すと言い出したのだった。「…ええ先生、このまま調査を続けても時間がかかるばかりで…何ですって、もう準備はできている、ですって?」
驚いたガオシンに、先生は一気に話し始めた。「ああ、もちろんこんな巨大な砂漠の中君たち2人では数が足りないと後から思ってね、水質調査・土壌調査のメンバーを2人ほど考えているところだ。あと、他にも手だてがある。彼らが納得してそっちに行くかどうかはまた別だが、まあ落ち着いて行動してくれ。とにかくロプ湖がちゃんとまだ存在していることは幸運にも今回わかったのだから、まだ焦ることはない。水源を探るんだ。そうすれば、地下の淡水も見つかるだろう」
「しかしですね先生、戦争の起きる可能性のあるエリアですよ。そこらへん、どうなさるおつもりで?」
「この状況への評価が低いようだね、しかしながら確かに緊張状態であるものの、この水脈には価値がある。両者の砂漠地帯をカバーできるだけの水源になりうるのだよ。既にそれは根拠を持って信じられている。それを永遠に失うようなことをすると思うかね、な、ガオシン」先生はなだめるようにそう言った。「その価値を超える益を互いが見いだした時のこと」は一切言わなかった。つまり、それだけの価値というのは国内政治の上でも国民の不満を解消させるものであり、友好関係から得られる外交政治のメリットも大きいという観測だった。希望的観測ではあるものの。
「では、俺たちはそのようにすることにします。俺たちへの連絡手段は」「予測地点か、街で待機させるよ」
「わかりました。よろしくお願いします」ガオシンは静かに電話を切った。砂漠でも電波の届く携帯電話は、ガオシンたちにとって常に利用するには高価すぎるのだ。
「ガオシン、先生は何だって」「このまま俺たちは調査を続ければいい、協力者のメドはついていて、フォローは先生がなさると」「そりゃありがてえ」
気がつくと、すでに日は落ちていて、乾期の夜独特の冷たい空気がただよってきていた。
「じゃあ、もう砂漠に戻ろう…か…」2人はその場で固まった。あの女性がそこにいる。服装や雰囲気は出会った時とは全く違っていたが、確かにあの女性だった。「ユエリャン?」彼女の姿をここで見かけることになるとは、タイヤンもまったく思ってはいなかったのだった。タイヤンは思わず走っていって彼女の手首をつかんだが、あまりの細さに慌てて手を離した。その反応は素っ気ないものだった。「何?」色素の薄い肌に、照明のせいではっきりした光と陰の現れた緑色の瞳が不愉快そうに揺れた。「タイヤン、もう少し品のいい行動をしないと嫌われるよ」ああ、確かにこの声は本当にユエリャンだ、とタイヤンはそう思った。「申し訳ない、こいつあんまり驚いたらしいね」ガオシンがタイヤンに目を向けながらユエリャンに話しかけた。「誰あんた」ガオシンは肩を落として、「こいつの仲間。あんた、あの湖で泳いでた子だろ?ここの地元の人じゃない感じがするけど」「細かいことはタイヤンに話したから、彼から聞いてちょうだい」
「どうやら、タイヤンは信用されてるものの俺は全然らしいね、美人さん」「当たり前でしょ、初対面なんだから」あまりの冷たい態度に、ガオシンは苦笑いしながら、「まあ、そりゃそうだな」と言うほかなかった。
「湖は、ロプ湖はどこだ」タイヤンはついに最も訊くべきことを言った。「今は、無くなってる。干上がってる。上流の水が途絶えているから。また、雨の降る季節に来るべきだと私は思うけれど」
「そうか」「乾期の話か」タイヤンとガオシンの2人は納得した。雨期にしか現れないということを教えているのだった。「でもユエリャン、なんでそんなことまで詳しく知ってるんだ?そして、なんで湖を追っかけて生活しているんだ?」
ユエリャンは緑色の瞳をタイヤンに向けた。
「おしえない」
「人が足りない」
3人はしかめっ面でそれぞれ腕を組んで考え込んでしまった。
「ええ、今のままでは湖をすぐに見失ってしまいます。遠方で連絡を取って動けるチームが他に2つは要るでしょう」
長老とタイヤンは、今回見失ったことでかなりの落胆を抱えていた。「先生に頼めることは頼んできたんだ」
長老は押し黙った。そこで、ガオシンは口を挟んだ。
「タイヤン、俺だって核を使われるかもしれないリスクを見越して家族に遺言を置いてきているんだよ、他にここに来てくれる奴なんてなかなかいないって」ガオシンはタイヤンをいさめるつもりで言った。 「俺たちをここに呼んだ、先生に相談するしかないと思っているんだ」タイヤンは具体的に話をするしかなかった。ガオシンは比較的ポジティブだが、こういった場合には具体的でなければ納得のしようがなかった。
「先生に?まあ…そうだな。とりあえず、話を聞いてもらう相手としてはまず間違ってはいないな」
タイヤンとガオシンは街に出た。先生に電話をかけるためだった。今回はガオシンが話すと言い出したのだった。「…ええ先生、このまま調査を続けても時間がかかるばかりで…何ですって、もう準備はできている、ですって?」
驚いたガオシンに、先生は一気に話し始めた。「ああ、もちろんこんな巨大な砂漠の中君たち2人では数が足りないと後から思ってね、水質調査・土壌調査のメンバーを2人ほど考えているところだ。あと、他にも手だてがある。彼らが納得してそっちに行くかどうかはまた別だが、まあ落ち着いて行動してくれ。とにかくロプ湖がちゃんとまだ存在していることは幸運にも今回わかったのだから、まだ焦ることはない。水源を探るんだ。そうすれば、地下の淡水も見つかるだろう」
「しかしですね先生、戦争の起きる可能性のあるエリアですよ。そこらへん、どうなさるおつもりで?」
「この状況への評価が低いようだね、しかしながら確かに緊張状態であるものの、この水脈には価値がある。両者の砂漠地帯をカバーできるだけの水源になりうるのだよ。既にそれは根拠を持って信じられている。それを永遠に失うようなことをすると思うかね、な、ガオシン」先生はなだめるようにそう言った。「その価値を超える益を互いが見いだした時のこと」は一切言わなかった。つまり、それだけの価値というのは国内政治の上でも国民の不満を解消させるものであり、友好関係から得られる外交政治のメリットも大きいという観測だった。希望的観測ではあるものの。
「では、俺たちはそのようにすることにします。俺たちへの連絡手段は」「予測地点か、街で待機させるよ」
「わかりました。よろしくお願いします」ガオシンは静かに電話を切った。砂漠でも電波の届く携帯電話は、ガオシンたちにとって常に利用するには高価すぎるのだ。
「ガオシン、先生は何だって」「このまま俺たちは調査を続ければいい、協力者のメドはついていて、フォローは先生がなさると」「そりゃありがてえ」
気がつくと、すでに日は落ちていて、乾期の夜独特の冷たい空気がただよってきていた。
「じゃあ、もう砂漠に戻ろう…か…」2人はその場で固まった。あの女性がそこにいる。服装や雰囲気は出会った時とは全く違っていたが、確かにあの女性だった。「ユエリャン?」彼女の姿をここで見かけることになるとは、タイヤンもまったく思ってはいなかったのだった。タイヤンは思わず走っていって彼女の手首をつかんだが、あまりの細さに慌てて手を離した。その反応は素っ気ないものだった。「何?」色素の薄い肌に、照明のせいではっきりした光と陰の現れた緑色の瞳が不愉快そうに揺れた。「タイヤン、もう少し品のいい行動をしないと嫌われるよ」ああ、確かにこの声は本当にユエリャンだ、とタイヤンはそう思った。「申し訳ない、こいつあんまり驚いたらしいね」ガオシンがタイヤンに目を向けながらユエリャンに話しかけた。「誰あんた」ガオシンは肩を落として、「こいつの仲間。あんた、あの湖で泳いでた子だろ?ここの地元の人じゃない感じがするけど」「細かいことはタイヤンに話したから、彼から聞いてちょうだい」
「どうやら、タイヤンは信用されてるものの俺は全然らしいね、美人さん」「当たり前でしょ、初対面なんだから」あまりの冷たい態度に、ガオシンは苦笑いしながら、「まあ、そりゃそうだな」と言うほかなかった。
「湖は、ロプ湖はどこだ」タイヤンはついに最も訊くべきことを言った。「今は、無くなってる。干上がってる。上流の水が途絶えているから。また、雨の降る季節に来るべきだと私は思うけれど」
「そうか」「乾期の話か」タイヤンとガオシンの2人は納得した。雨期にしか現れないということを教えているのだった。「でもユエリャン、なんでそんなことまで詳しく知ってるんだ?そして、なんで湖を追っかけて生活しているんだ?」
ユエリャンは緑色の瞳をタイヤンに向けた。
「おしえない」
湖、動く
朝になると、砂漠の強い直射日光が突き刺さるその痛みから逃れるために厚い麻のかぶりものをして汗をかきながらロプ湖を観測し続ける二人がいた。
「タイヤン、あの子は現地人か?」「いや、もう暗かったからよくわかんないんだけど…俺に昨日の夜、ロプ湖が来てるって教えてくれた。漢語だったぞ」「本当は湖からあがっててほしいところだけど、そういうことなら追い出す訳にもいかないか」彼女は湖の中程で泳いでいた。
ここにテレビの電波は届かない。もちろんラジオもだ。この砂漠で頼りになるのは方位磁石と、空からの電波と、夜の闇に閉ざされるその時間以外照りつける強烈な直射日光で蓄電した電力、そして週に一度訪れるヘリでの食料や水などの追加。ここは何度も民族同士の戦地になり、時代を経た貴重な品物はほとんど失われてしまった。それと共に、かつてここを守っていたその民族は散り散りになり、内紛を起こした国家も新しいスタートを切ったところだった。そういった事情で、治水のために現状を調査するためにこの若い2人が呼ばれたのだった。タイヤンとガオシンは貴重な、都市部からの人間だった。
「こりゃ、いい水だな。タイヤンはどう思う?」「想像以上に質がよくて驚いたよ。何しろ」「あれだけの大騒ぎになった場所だというのに、こんなに綺麗な水が流れているとはね。この塩さえ取り切れれば、人が住むには十分だ」
水の音をはねさせて、あの女性がこっちに近づいてくる。「もう、この湖はここを去ります」
「は?」
「もう、この湖はどこかに行ってしまうんですよ」
湖をやっと見つけるまでに到ったのに、移動してしまう、と彼女はそう言ったのだった。
「どこへ?」
「どこかへ」
「あの…」ガオシンが彼女に話しかける。「その、根拠は何なんですか」
「昔の本を、あなたたちはもうちょっと読むべきだと思うよ、それ以上言う必要はないでしょう。…Der Wandernde Seeと、昔は別名がついていた湖なのに」
「どうして、知っているんですか」
彼女は背を向けて、廃墟の方へ行ってしまった。本当に、この強烈な日光とは対照的なほど、冷たい態度だった。
ざ、ざ、と水がゆっくり動いていた。いや、揺れ始めたと言うべきか、しかし、湖水は確かに、間違いなく動いていた。
「Der, Wandernde,See…」
それはドイツ語での別名だった。ここからドイツはとても遠いけれど、その昔、ある探検家が「さまよえる湖」という仮定を作り上げたのだった。しかし、その後湖自体は消え、空からの観測が可能になった昨今では「もう消えてしまった」と結論が出ていた。この湖は別の湖であるはずなのに。
「消えたはずの湖」、そのことを思い出すのに、タイヤンは少し時間がかかった。「ちょっと待って!」既に遠くを歩いていたその女性は振り向いた。「どうして、あんたはそれを知ってるんだ?覚えてるんだ?」「話すには条件がある」「何でも聞くよ。構わない」
彼女は廃墟になった建物に背中を寄せた。
「ここでの核実験や戦争をとめて」
「俺はただの研究者だ!そんな力があるとでも?」
「砂漠には水脈があり、あなたには人脈があるのでは」
「そりゃ、俺をここに呼んだのは先生の」
ここでタイヤンははっと気がついた。
「俺がここで研究を続けるには、ここで戦争を起こされちゃダメなんだ」
「共通の目的だね」
彼女は近づいてきて、重そうなかぶりものを引っ張り、目を見せた。驚くほど肌は真っ白で、瞳は明るいグリーンだった。「あなたは、ここの地元の人じゃないのか」
「the last rose of summer...」彼女はタイヤンに顔を近づけて、歌の一節を歌った。すっと顔を離し、あっちを向いて話し続けた。
「既に私の民族は散り散りになって、他の国へ離れていった」
「あなたは難民にならなかったのですか」
「私は、その民族の中で嫌われ者だったから」
タイヤンがためらいながら言いたくない言葉を口に出した。
「混血だからですか」
「そう、でも時々街に行けば充分な収入はあるからこの自由も悪くない」
「ここから、街へ?相当遠いんじゃ」
また、彼女は後ろ姿を見せようとしたので、タイヤンはつい引き留めるように尋ねた。
「名前は?」
「訊くなら自分から名乗るべきではないかな」
「李太陽。これで訊いてもいいだろ」
「月亮」
「ユエリャン…もし別の名前もあるなら、訊いてもいい?」
「Christine」
「クリスティーン?どっちで呼んでほしい?」
「話しやすい方で。あなたは中国系でしょう、ユエリャンで充分。でも…」
「でも?」
「私はもうじきここからいなくなるから」
彼女はすっと離れていった。
「私はロプ湖と生きているの」
「移動して暮らしているってことかい?」
「そう、いいでしょう。素晴らしいことでしょう」
「だから、じゃあね、タイヤンが探し続けるつもりなら、たぶんまた会うでしょう」
ガオシンの呼ぶ声が聞こえた。
「あのな!突然いなくなってどういうつもりだよ?」
「ご、ごめん」
「今日は色々調査することがあるって言っておいたんだから、それくらい消化させてくれよ!」
「ごめん、ガオシン。あのな、この湖は動くんだな。」
「えっ?」
ざざ、ざざ、と水が流れていく。
「おい!本当に動いてるってことなのかよ!この平坦な土地で!昔話がよみがえったとでも?」
タイヤンは荷物をまとめながら言った。
「ガオシン、とにかく行こうか、追いかけないと」
より高台から川が湖に流れ込んでいる。
水は低きに向かって流れる、それは常識だ。
でも、この湖は平坦なこの土地で動いている。
「タイヤン…この動きは一体いつまで続くんだろうな?」
歩き続けること半日。ゆっくりであっても、やはりひどい疲労がたまってくる。
突然すさまじい音が響き、驚いたガオシンは悲鳴を上げた。
タイヤンは呆然と見ているほかなかった。
なんと、その後湖は一滴の水も残さず、消えてしまったのだった。
二人の落胆は相当なものだった。
「これは…どうすればいいって…」
「探し続けるなら、また会うでしょう」
ユエリャンが言った言葉を、タイヤンは思い出していた。
朝になると、砂漠の強い直射日光が突き刺さるその痛みから逃れるために厚い麻のかぶりものをして汗をかきながらロプ湖を観測し続ける二人がいた。
「タイヤン、あの子は現地人か?」「いや、もう暗かったからよくわかんないんだけど…俺に昨日の夜、ロプ湖が来てるって教えてくれた。漢語だったぞ」「本当は湖からあがっててほしいところだけど、そういうことなら追い出す訳にもいかないか」彼女は湖の中程で泳いでいた。
ここにテレビの電波は届かない。もちろんラジオもだ。この砂漠で頼りになるのは方位磁石と、空からの電波と、夜の闇に閉ざされるその時間以外照りつける強烈な直射日光で蓄電した電力、そして週に一度訪れるヘリでの食料や水などの追加。ここは何度も民族同士の戦地になり、時代を経た貴重な品物はほとんど失われてしまった。それと共に、かつてここを守っていたその民族は散り散りになり、内紛を起こした国家も新しいスタートを切ったところだった。そういった事情で、治水のために現状を調査するためにこの若い2人が呼ばれたのだった。タイヤンとガオシンは貴重な、都市部からの人間だった。
「こりゃ、いい水だな。タイヤンはどう思う?」「想像以上に質がよくて驚いたよ。何しろ」「あれだけの大騒ぎになった場所だというのに、こんなに綺麗な水が流れているとはね。この塩さえ取り切れれば、人が住むには十分だ」
水の音をはねさせて、あの女性がこっちに近づいてくる。「もう、この湖はここを去ります」
「は?」
「もう、この湖はどこかに行ってしまうんですよ」
湖をやっと見つけるまでに到ったのに、移動してしまう、と彼女はそう言ったのだった。
「どこへ?」
「どこかへ」
「あの…」ガオシンが彼女に話しかける。「その、根拠は何なんですか」
「昔の本を、あなたたちはもうちょっと読むべきだと思うよ、それ以上言う必要はないでしょう。…Der Wandernde Seeと、昔は別名がついていた湖なのに」
「どうして、知っているんですか」
彼女は背を向けて、廃墟の方へ行ってしまった。本当に、この強烈な日光とは対照的なほど、冷たい態度だった。
ざ、ざ、と水がゆっくり動いていた。いや、揺れ始めたと言うべきか、しかし、湖水は確かに、間違いなく動いていた。
「Der, Wandernde,See…」
それはドイツ語での別名だった。ここからドイツはとても遠いけれど、その昔、ある探検家が「さまよえる湖」という仮定を作り上げたのだった。しかし、その後湖自体は消え、空からの観測が可能になった昨今では「もう消えてしまった」と結論が出ていた。この湖は別の湖であるはずなのに。
「消えたはずの湖」、そのことを思い出すのに、タイヤンは少し時間がかかった。「ちょっと待って!」既に遠くを歩いていたその女性は振り向いた。「どうして、あんたはそれを知ってるんだ?覚えてるんだ?」「話すには条件がある」「何でも聞くよ。構わない」
彼女は廃墟になった建物に背中を寄せた。
「ここでの核実験や戦争をとめて」
「俺はただの研究者だ!そんな力があるとでも?」
「砂漠には水脈があり、あなたには人脈があるのでは」
「そりゃ、俺をここに呼んだのは先生の」
ここでタイヤンははっと気がついた。
「俺がここで研究を続けるには、ここで戦争を起こされちゃダメなんだ」
「共通の目的だね」
彼女は近づいてきて、重そうなかぶりものを引っ張り、目を見せた。驚くほど肌は真っ白で、瞳は明るいグリーンだった。「あなたは、ここの地元の人じゃないのか」
「the last rose of summer...」彼女はタイヤンに顔を近づけて、歌の一節を歌った。すっと顔を離し、あっちを向いて話し続けた。
「既に私の民族は散り散りになって、他の国へ離れていった」
「あなたは難民にならなかったのですか」
「私は、その民族の中で嫌われ者だったから」
タイヤンがためらいながら言いたくない言葉を口に出した。
「混血だからですか」
「そう、でも時々街に行けば充分な収入はあるからこの自由も悪くない」
「ここから、街へ?相当遠いんじゃ」
また、彼女は後ろ姿を見せようとしたので、タイヤンはつい引き留めるように尋ねた。
「名前は?」
「訊くなら自分から名乗るべきではないかな」
「李太陽。これで訊いてもいいだろ」
「月亮」
「ユエリャン…もし別の名前もあるなら、訊いてもいい?」
「Christine」
「クリスティーン?どっちで呼んでほしい?」
「話しやすい方で。あなたは中国系でしょう、ユエリャンで充分。でも…」
「でも?」
「私はもうじきここからいなくなるから」
彼女はすっと離れていった。
「私はロプ湖と生きているの」
「移動して暮らしているってことかい?」
「そう、いいでしょう。素晴らしいことでしょう」
「だから、じゃあね、タイヤンが探し続けるつもりなら、たぶんまた会うでしょう」
ガオシンの呼ぶ声が聞こえた。
「あのな!突然いなくなってどういうつもりだよ?」
「ご、ごめん」
「今日は色々調査することがあるって言っておいたんだから、それくらい消化させてくれよ!」
「ごめん、ガオシン。あのな、この湖は動くんだな。」
「えっ?」
ざざ、ざざ、と水が流れていく。
「おい!本当に動いてるってことなのかよ!この平坦な土地で!昔話がよみがえったとでも?」
タイヤンは荷物をまとめながら言った。
「ガオシン、とにかく行こうか、追いかけないと」
より高台から川が湖に流れ込んでいる。
水は低きに向かって流れる、それは常識だ。
でも、この湖は平坦なこの土地で動いている。
「タイヤン…この動きは一体いつまで続くんだろうな?」
歩き続けること半日。ゆっくりであっても、やはりひどい疲労がたまってくる。
突然すさまじい音が響き、驚いたガオシンは悲鳴を上げた。
タイヤンは呆然と見ているほかなかった。
なんと、その後湖は一滴の水も残さず、消えてしまったのだった。
二人の落胆は相当なものだった。
「これは…どうすればいいって…」
「探し続けるなら、また会うでしょう」
ユエリャンが言った言葉を、タイヤンは思い出していた。
もし、ロプノールのために人が集まったなら。
青年たちが荷物を片づけている。 「タイヤン、もう暗い。今日はここで終わりだな。テントに戻ろう」 「うん、そうしよう。…でも、もうちょっとだけ。ガオシンは先に戻ってていいよ」 「熱心だな、相変わらず」 「だって、やっとこの砂漠に来ることができたんだよ、どんなに熱心にやったところで、十分なんてことなんかない。俺らはこんなチャンスでもなければ、研究現場に立つなんて夢のまた夢なんだぜ」 「はは、それは言えてる。でも一日を片づけなきゃならないし、俺は先にテントに戻ってるよ、サソリやなんかには気をつけろよ、薬が少ないんだ」
ここはタクラマカン砂漠、少数民族が細々と暮らす平和な小さな町がそこかしこにある。今世紀から来世紀の間には消滅の危険があると言われている言語を話し、それと同時に消えてしまうのではないかと思われながらも放置されている文化の中に暮らしている。
この民族は貴重な水脈を辿り、戦争の危険まで何度も繰り返した。更に核の危機までも、何度も通り過ぎた。だからこそ、命の水、それだけの安定供給を図ろうと水脈を研究する人を呼んだのだった。ただし、最大の希望である「ロプ湖」がもし見つかったとしてもあの湖は塩湖だったから、同時に政府の中に上り詰めた民族出身の政治家はそれを淡水にするための研究を他の場所で始めさせたことだけは、タイヤンもガオシンも知っていたのだった。
安定しない文化の衝突、重なる核実験の不安、そういったものもこの青年たちは覚悟しなくてはならなかった。でもそれは、ここに生きている少数民族たちも同じことだった。
暗闇の中に人の影が浮かんだのに気づき、タイヤンは立ち上がった。「誰だ」細い女の声は答えた。「…こんばんは、こんなに遅くまで頑張ってるのね。あまり暗くなってからでは片づけるのが大変。早めにしておいたら?」タイヤンは知らない振りをして、背を向けて荷物を片づけた。流暢な漢語だった。
「あなたはこの湖を探していたのではないのですか」タイヤンは息が詰まるように目を見張った。彼女の後ろに、ロプ湖が現れたことに、あまりに驚いたのだった。その時、言葉を失ってじっと見つめていた。彼女も、タイヤンを見つめていた。
「おい!ガオシン!ロプ湖だ!噂のロプ湖だ!」その女性の影は、その時もう踵を返し、離れていった。
青年たちが荷物を片づけている。 「タイヤン、もう暗い。今日はここで終わりだな。テントに戻ろう」 「うん、そうしよう。…でも、もうちょっとだけ。ガオシンは先に戻ってていいよ」 「熱心だな、相変わらず」 「だって、やっとこの砂漠に来ることができたんだよ、どんなに熱心にやったところで、十分なんてことなんかない。俺らはこんなチャンスでもなければ、研究現場に立つなんて夢のまた夢なんだぜ」 「はは、それは言えてる。でも一日を片づけなきゃならないし、俺は先にテントに戻ってるよ、サソリやなんかには気をつけろよ、薬が少ないんだ」
ここはタクラマカン砂漠、少数民族が細々と暮らす平和な小さな町がそこかしこにある。今世紀から来世紀の間には消滅の危険があると言われている言語を話し、それと同時に消えてしまうのではないかと思われながらも放置されている文化の中に暮らしている。
この民族は貴重な水脈を辿り、戦争の危険まで何度も繰り返した。更に核の危機までも、何度も通り過ぎた。だからこそ、命の水、それだけの安定供給を図ろうと水脈を研究する人を呼んだのだった。ただし、最大の希望である「ロプ湖」がもし見つかったとしてもあの湖は塩湖だったから、同時に政府の中に上り詰めた民族出身の政治家はそれを淡水にするための研究を他の場所で始めさせたことだけは、タイヤンもガオシンも知っていたのだった。
安定しない文化の衝突、重なる核実験の不安、そういったものもこの青年たちは覚悟しなくてはならなかった。でもそれは、ここに生きている少数民族たちも同じことだった。
暗闇の中に人の影が浮かんだのに気づき、タイヤンは立ち上がった。「誰だ」細い女の声は答えた。「…こんばんは、こんなに遅くまで頑張ってるのね。あまり暗くなってからでは片づけるのが大変。早めにしておいたら?」タイヤンは知らない振りをして、背を向けて荷物を片づけた。流暢な漢語だった。
「あなたはこの湖を探していたのではないのですか」タイヤンは息が詰まるように目を見張った。彼女の後ろに、ロプ湖が現れたことに、あまりに驚いたのだった。その時、言葉を失ってじっと見つめていた。彼女も、タイヤンを見つめていた。
「おい!ガオシン!ロプ湖だ!噂のロプ湖だ!」その女性の影は、その時もう踵を返し、離れていった。
Der Wandernde See さまよえる湖
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あとがき
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あとがき
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湖は、そっと、小さくなって眠るように動いていた。ユエリャンは街で暮らしていた。「外国人が2人、来る。私のもう一つの故郷から」
長い髪を揺らし、ユエリャンはレストランの2階バルコニーで夜の街を見つめていた。「どちらの故郷の人からも嫌われ者、よそ者扱いだもの。でも街は、どんな人も受け入れる。だから、価値がある。でも街は街だけで成立してるわけじゃない、そう仰いたいんでしょう、先生?」
ユエリャンが振り返る。そこには、サラとソラの先生がいた。
「長老は君に感謝している。しかし、外見の違う君を大いに受け入れることは、村の人々が許してくれない。長老は君を拒絶したわけではないんだよ、わかってくれるかい」
「何もかも遅いし、犠牲は戻らない。私はどちらでもあるし、どちらでもないんですよ」ユエリャンは一瞬目を伏せた。
「タイヤンの国も、マクシムの国も嫌いかい」
「大した違いはありませんね、外見を理由にして深くは受け入れない点ではね。おかげで私は宙ぶらりん。私がおもてに出ると都合が悪いから、先生たちに動いていただけるのはとても助かります。」
「君はそれでいいのかい」
「それしかないでしょう」
ユエリャンはテーブルに戻り、グラスを手に取った。
「感謝しています。私の考えに乗ってくださったこと」
「君の影響力はこの状況であっても強い。私は一介の教員に過ぎない。むしろ信頼してくれたことを私が感謝しなくてはならないだろうね」
2人はグラスを揺らして酒を飲み干した。
「私の目的に賛同してくださる方がいらっしゃることがどれだけ心強いことか。感謝申し上げます」
雨が降っている。タイヤンとガオシンのテントは雨季専用の頑丈なものに変わっていた。「これだけ雨が降っていれば、湖もすぐ現れるだろうな」ガオシンは本をパッケージに入れていた。「本がカビるのだけは勘弁だけどな!」
タイヤンはそう言った後、考えごとをしながら周囲を片づけていた。ずいぶん長いことユエリャンに会っていないので、タイヤンはユエリャンのことをすっかり忘れていた。それ以上に、サラやソラたちとの関係に悩むことが多く、ガオシンも少し気疲れしていた。サラはのんびりしていて、ソラは地元のことだからとはいえ多少神経質になっていた。どうすればその氷のような関わり方を変えることができるのか、わからなかった。結局、「お前たちは政府が公式に認める血統の人間だからな」と言わんばかりのソラに、困らされていたのだった。
雨の降りしきる中、馬のような動物の足音が聞こえた。4人は外に出た。あまりにも遠目で、タイヤンやガオシンにははっきりとは見えない。その時、ソラが言った。「外国人だな、白人だ。2人いる」ガオシンは多少警戒する様子で「もしかしたら、先生が送ってくださった人たちじゃないかな、でも何の連絡も無いし」とソラ。「私たちが来た時も、連絡をよこしてはくれなかったのでしょう?急いで送ってくれたのかもしれない」サラはそう言った。
陰は大きくなった。雨合羽を着た頑丈そうな陰と、それよりは少し小さな陰。すると、陰の後ろにいた人物が動物を連れて行ってしまった。大きな荷物を抱え、歩いてこちらに向かってくる。2つの大きな陰はこちらに向かって手を振った。
「よう、タイヤン、ガオシン、サラ、ソラの4人か?よろしくな、先生がこっちに来れるように手配してくれたんだ!」大きな明るい声で叫んでいた。軽く走ってきて、「俺はマクシム。でもレイフォンって別名も作ったことがある。そっちで呼んでくれてもいいよ!で、こっちがソフィア。困った時はニーナってクラスメイトも母国から手伝ってくれることになってる。」4人の顔を見て、マクシムは驚いた。「何だ?おまえたち。暗いな!もっと明るく迎えてくれよ、手助けだよ、まるで葬式だな!肉を持ってきたんだ、雨が落ち着いたら食おう」ソラが冷たく言った。「俺は、肉は食わない」「それも知ってるって!グルテンの肉も持ってきたんだ!俺、少しは気が利くだろ?」
タイヤンとガオシンがぼーっとマクシムを見ていた間、ソフィアはサラと話していた。「サラは楽器ができるって聞いたから、メンテナンスの道具を持ってきたの!長いことここにいるんだから、楽しくやらなきゃね!砂漠地帯だからってコスメを置いてこようと思ったんだけど、やっぱりい持ってきちゃったの」「それは持ってきて正解だと思うよ」「砂漠地帯に来るのは初めてだから、よくわからなくて先生に聞いたり調べたりした。でも…私たち、衛星携帯電話を持ってきたから、連絡手段は全部これで解決すると思うの!」
「えっ!」4人は驚いて、そして喜んだ。
「4人もいて普通の携帯電話も持ってなかったの?あれがあれば転送なんてできるよね?」タイヤンが言った。「値段が高すぎるよ、俺とガオシンはただの学生だし、サラとソラは地元の人で」ソラは続けて言った。「そんな収入なんてないよ」。
「ははあ、つまりそういうことか。俺たちをここに連れてきたのは、そういうお金の問題を補うためでもあったのか。ここのエリアは色々、政治的な問題があるとは思っていたけど」
ソフィアがふと思い出したように語った。「もう一つ問題があったね、あなたたち、長老と話があまりうまく噛み合っていなかったみたいだよね。語学、ちょっと苦手だったんじゃないの?まあ、確かに長老の言葉は不思議な言い回しをよく使う人だけど…」サラとソラは「あの長老の言葉をすんなり理解できるの?」と驚いた。「あなたたち地元の人じゃないの?」「民族が入り交じっているから、村が違うと言い回しが違うんだ。確かに文法は同じなんだけど、わからないことも多い」「そう。じゃあそこは私が解決することに。」ソフィアは目を閉じてそう言った。
協力者が増え、状況は刻一刻とよくなっているように感じられた。