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Little stories

夢か何かだったのかもしれない

No.16, No.15, No.14, No.13, No.12, No.11, No.107件]

もし、ロプノールのために人が集まったなら。


青年たちが荷物を片づけている。 「タイヤン、もう暗い。今日はここで終わりだな。テントに戻ろう」 「うん、そうしよう。…でも、もうちょっとだけ。ガオシンは先に戻ってていいよ」 「熱心だな、相変わらず」 「だって、やっとこの砂漠に来ることができたんだよ、どんなに熱心にやったところで、十分なんてことなんかない。俺らはこんなチャンスでもなければ、研究現場に立つなんて夢のまた夢なんだぜ」 「はは、それは言えてる。でも一日を片づけなきゃならないし、俺は先にテントに戻ってるよ、サソリやなんかには気をつけろよ、薬が少ないんだ」

ここはタクラマカン砂漠、少数民族が細々と暮らす平和な小さな町がそこかしこにある。今世紀から来世紀の間には消滅の危険があると言われている言語を話し、それと同時に消えてしまうのではないかと思われながらも放置されている文化の中に暮らしている。

この民族は貴重な水脈を辿り、戦争の危険まで何度も繰り返した。更に核の危機までも、何度も通り過ぎた。だからこそ、命の水、それだけの安定供給を図ろうと水脈を研究する人を呼んだのだった。ただし、最大の希望である「ロプ湖」がもし見つかったとしてもあの湖は塩湖だったから、同時に政府の中に上り詰めた民族出身の政治家はそれを淡水にするための研究を他の場所で始めさせたことだけは、タイヤンもガオシンも知っていたのだった。

安定しない文化の衝突、重なる核実験の不安、そういったものもこの青年たちは覚悟しなくてはならなかった。でもそれは、ここに生きている少数民族たちも同じことだった。

暗闇の中に人の影が浮かんだのに気づき、タイヤンは立ち上がった。「誰だ」細い女の声は答えた。「…こんばんは、こんなに遅くまで頑張ってるのね。あまり暗くなってからでは片づけるのが大変。早めにしておいたら?」タイヤンは知らない振りをして、背を向けて荷物を片づけた。流暢な漢語だった。

「あなたはこの湖を探していたのではないのですか」タイヤンは息が詰まるように目を見張った。彼女の後ろに、ロプ湖が現れたことに、あまりに驚いたのだった。その時、言葉を失ってじっと見つめていた。彼女も、タイヤンを見つめていた。

「おい!ガオシン!ロプ湖だ!噂のロプ湖だ!」その女性の影は、その時もう踵を返し、離れていった。

さまよえる湖

幼い学生たちがお喋りをしている。
銀色のサッシに太陽の陽が当たっている。
「金曜日のメールの話、知ってる?」
「知ってる知ってる、気味悪かったよね」
「ねえ、でもさ、最近来なくなったと思わない?」
教員とおぼしき男性が姿を現す。
「おい、お喋りしてないでさっさと掃除終わらせろよ」
「はーい」
「さっき喋ってたのは金曜のメールのことだよな?」
「なんだ、先生も興味あったんじゃないですかー」
「ネットワークが新しいものに変わってからなんだよな、メールが来なくなったのは」
「先生そういうの詳しいですよね」
「もしかしてさ、誰かが古いネットワークの中にいて、優しい言葉をたくさん人に送ってたとか思っちゃうよね」 「やーだ、そんなのよけい気味が悪いって。本の読みすぎだよ」
教員は言った。
「もしかしたら、そんなことができる人がいたかもしれないね、そういうこと考えるのは悪いことじゃないよ。神秘的でいいじゃないか」
真夏の強い日差しが、彼らの離れた場所に刺すように降り注いでいた。
(了)

電子世界2

「トモエ、もうメールを送るのはやめだね」
「そうだね」
トモエはネットワークの中で、アキとヨシと一緒にあらゆる人に「雨」という名前でメッセージを送っていたのだった。「どうして、もうやめるんだ?」

「私たちはじきに、存在できなくなるのさ」アキが脚を組んで、片方の脚を揺らした。
「あの男の子は情報が早かったね、キャッシュからニュースをもらったんだけど、どうやらもうこのネットワークも更新されて、古いネットワークからの乗り換えが始まっている。」トモエはテーブルに肘をついた。

「なるほど、俺たち消えちまうのか」
「あんたには悪いことしちゃったね、元々私はトモエにくっついてここにずっといるつもりだったんだけど、あんたが外にいてくれれば、あんたは無事な一生を送れたというのに」アキはヨシに向き直って、話し続けた。
「そんなこと言ってもなあ、身体ごとここに来ちゃったからな」ヨシは笑った。
「後悔先に立たずって話だね」アキは笑った。
トモエが静かに言った。「でもヨシはアキが好きだからそうしたんでしょ」

「後悔はないよ、どうでもいいことだ」

「元々選択肢なんかなかった」アキは目を閉じた。
「知らないことが重なったし」トモエも目を閉じた。
「無力なまま動き続けてたんだ」ヨシも、目をそっと閉じた。

3人はそのまま、動かなくなり始めた。 アキの髪留めが溶け、髪がほどけ、トモエとヨシがアキの両側で繋いでいた手が緩み、3人は一緒に砂のような数字と記号になって、消えていった。

電子世界2

「ねえ、いつもメールをくれてありがとう」
白と灰色の古い思い出の中で、その女の子は一人で携帯をいじっていた。白いリネンの中、彼女は最後に送信ボタンを押して、目を閉じた。この病院の就寝時間はとっくに過ぎていた。その日は、金曜日だった。夜、彼女が眠っている間に、そのメールの返事は届いた。

枕元に置いたタオルの下で、携帯が短く震え、彼女は一瞬目を醒ました。しかし、彼女はまだ小さく幼かったのでそのまま寝入ってしまった。

朝、採血のために声をかけられ目を醒ますと、少し立体的な雲の陰のはっきりした空が遠くに見えた。彼女は窓際のベッドで、慣れた風に採血をしてもらい、小さな絆創膏を上から押さえた。朝食の出される7時まではまだ少し間があった。短く切りそろえた髪を揺らして、携帯電話を起動すると、小さなアイコンが着信を知らせていた。

彼女は食事が減って、日に日にやせ細っていった。彼女はあらかじめ知らされたその現実を受け入れ、それが自然なことだと思っていた。

友人は一人一人、少しずつ来なくなっていった。そしてまた、それを悲しむような余裕は無くなっていった。彼女は6人部屋から4人部屋へ、2人部屋へと少しずつ移動されていっていた。

「ねえ、あんた悲しくないの」
マスクをかけた制服姿の女の子が、話しかける。
「何が」
もはやベッドに横たわるしかできなくなった彼女は、無気力に笑って言った。
「あのさ、金曜日のメールって知ってる?」
「知ってる。今頃何を言ってるの?みんなあの気味の悪いメールなんか常識で、もう話題にすらならないじゃない」

「私、あんたがこのままいなくなってしまうなんて辛いよ」
「知ってて友達になったんじゃなかったっけ?…ほら、3時過ぎにはおばさまが来るから、帰らないとまた怒鳴られるよ。おばさまのこと、あまり嫌わないで。早くに寿命が終わってしまうわたしと、仲良くする人がいるとその人が悲しむからああやって…近くに人が寄らないようにしているのだから」
彼女は、息が苦しくならないように、少しずつ、声を出した。
「あの人は、自分たちが財産を早くに継げるからそうしてるんだよ」
制服を着た女の子は怒って、立ち上がった。

彼女は言った。「それで、あのメールのこと知ってるんでしょ、あなたはどうするの」
「私は、あのメールの言う通りにする。他にはもうない」

「一緒にいてくれるの?ありがとう」
彼女は笑った。

「金曜日の夜、起きていようね」
二人は約束した。

金曜日の夜が訪れた。
その時、彼女は昏睡状態にあった。
その時、女の子は目を醒ましていたが、彼女の状況は知らされていなかった。家族ではなかったから。

22時が訪れた。 既に死の扉を開いた彼女は少しずつからだを失っていった。個室のテーブルの上に置かれた携帯電話から、「あの不思議なメール」とのやりとりが消えていった。
制服を着たままの女の子もまた、少しずつからだを失っていった。枕元に置いてあった携帯電話から、「あの不思議なメール」とのやりとりが消えていった。

小さな声が聞こえる。
「あなたたちが一緒にいられるようにしてあげる」
その文字が細かな数列になって、また更に数列が小さく分裂していき、消えていく。

「お願いします、私たちは一緒にいたいんです」
その文字が細かな数列になって、また更に数列が小さく分裂していき、そして小さな0と1になって消えていく。

「できるならやってほしい、どうか力になってください」
その文字が細かな数列になって、また更に数列が小さく分裂していき、そして小さな0と1になって消えていく。

2人は夢のような暗闇の中、手をつないでいた。知っているひとの顔が浮かんでは細かな数列になって、あらゆる記憶が小さな0と1になって消えていく。

女の子はひとつの姿にふと手を伸ばした。「お別れだね」

すると彼女は女の子を激しく罵った。「わたしが、健康じゃなかった間に、あなたは他の人に目を向けていたの?わたしを独りにしないって言ったじゃない、嘘つき!」彼女は女の子の手を離した。「もう会いたくない、ここから消えて!」

すると、女の子は冷たくなったベッドの上で目を醒ました。既に朝だった。女の子は、お昼すぎに病室を訪れた時に、彼女がいなくなったことを知ってひどく嘆いた。

しかし彼女はその病室を出ると、暗く暖かなところにいた。
「おはよう、新しくここに来てくれた子だね。改めて、名前を聞かせてくれるかな」
「 」
「そう、こちらも改めてご挨拶を。雨と申します。よろしくね。」
彼女はそこで意識を失い、眠るのだった。

電子世界2

金曜日

携帯が鳴っている。
短い着信音に、メールだとみな気がつく。
今日は、金曜日。


短く切った柔らかい黒髪に、明るいブラウンの瞳が、つやつやと揺れる。彼は故郷を遠く離れ、いわゆる大都市と言われる場所に住んでいた。夜の22時、部屋の照明をつけずにいた。パイン材の薄いベージュ色の机に落ちる他のビルからの白い光で十分部屋は明るいと感じていた。ライトグレーの絨毯の上には、今さっき帰宅したことがわかるような買い物袋が、荷物を入れたまま鞄と一緒に落ちている。彼は一度小さな冷蔵庫にパンを入れるために部屋から玄関の方へと向かった。

戻ってくると、彼はカップにコーヒーを注ぎ、その柔らかく流れていく湯気すら気にすることなく、その文章を見つめていた。

誰が自分に関心を持つものかと、彼は1年前までそう思っていた。彼は受信ボックスを開くと、同じ送信元の並んだリストを見た。彼にメールを送る人はほとんどいないから、そのリストの見える範囲には同じメールアドレスしか見えていない。おそらく、その下を見ても同じメールアドレスしか載っていないだろう。

彼は唇を閉じたまま、そうして時間が過ぎた。

そうして、翌週の金曜日の夜にも同じようにメールが送られてきた。明るさを失ったブラウンの瞳が、柔らかい黒髪から透けて見える。彼はこの一週間を辛い気持ちで過ごしたのだった。帰宅した彼はメールを開いた。悲しさと悔やしさが押し寄せてきたため、一瞬でもそれを忘れようとしていた。彼はメールを開いたものの、読めていなかった。彼は上着やスラックスを脱ぎ、下着のままベッドに入り眠ってしまった。

さて、次の日、彼は起き出して自分の用事をやっていた。あのメールのことはすっかり忘れて、彼はあのままの沈んだブラウンの瞳を繰り返し擦りながら風呂を済ませた。孤独感は増すばかりで、彼は部屋を出て外で過ごすことにした。

太陽の日差しが弱くなっていくのを見ている時、携帯をまったくチェックしていなかったことを彼は突然思い出した。

彼は驚いた。あの不思議なメールの本文には、彼の名前が書かれていたのだった。今まで、彼はこのメールに返信したことは一度もなかった。

「こんにちは、いつき。元気に過ごしているでしょうか。元気にしているといいのだけれど」

メールはこの文だけで終わっている。自分の名前を送信したこともないのに、自分の名前をその人は知っている。不思議だけれど、彼はあまりにも孤独すぎて、それが嬉しかったのだった。

数ヶ月が過ぎ、彼は仕事以外の場でパートナーを作ることができたのだった。そのために、すっかりそのメールのことを忘れていた。金曜日の22時が、訪れた時、2人の携帯が同時に鳴った。彼女は携帯を見ていたが、「毎週金曜日のこの時間に決まってメールが届くんだよね。文面は優しいんだけどさ、何だか気味が悪くて」

彼女は言った。「あんまり、ああいうのに返事しない方がいいよ」チョコレートを口にしながら。「何が目的なのかわからないじゃない?」

「そういうものなのかな」「そうだよ」
彼は、彼女の意見にとりあえず同意することにした。
「そうか、じゃあ、そうしよう」

しかし、火曜日、彼は彼女が自分の知らない男性と親しげに、楽しそうに話しているのを見かけてしまった。「どうしたらいいんだろう」彼は不安になったが、見なかったことにすることにした。一人に戻りたくなかったのだった。話題にすれば、関係が失われるかもしれない、その不安に、彼は耐えられそうになかったのだった。

金曜日の夜が訪れ、彼は一人で自分の部屋にいた。彼女と一緒に過ごしたかったが、声をかける気持ちに、どうしてもなれなかったのだった。しかしそれはまた逆効果で、彼に不安を起こさせた。今頃、彼女はあの知らない男性と一緒にいるのではないか、そうして自分と一緒にいるより楽しく過ごしているのではないか、と。

そうして、また彼はあのメールを見るのだった。「いつき、どうして今一人でいるの」と。今度は名前だけではなく、状況を知っていることに気がついた。彼女は、確か「気味が悪い」と言っていた。彼はふと、返信した。「なぜそんなことを聞くんだ?誰?」すると、すぐに返事が返ってきたのだった。「彼女を一人にしてはいけないと思う。」

そして、彼はもう一度返信した。「彼女が今どこにいるのか、知らないよ。関係ないだろう?」そしてまたすぐにメールが返ってきた。「あなたたちが最後に行った橋の上にいる。すぐに行きなさい」

彼は上着を着て、小さな鞄を持った。走ってその場所へ向かった。彼は彼女の姿を見て息をのんだ。彼女は今、まさに川を見つめてぼんやりとしていた。彼は急いで彼女の元へ行った。「どうしてこっちに来ているのに、連絡してくれなかったんだ?」「何で、いつも通り誘ってくれなかったの、私はあなたに振られたんだと思った。もう、一緒にいたくないってこと?」彼らの近くで、冷たい風が吹き、彼女のニット帽から出ている髪が揺れていた。

彼は、彼女の手を取って歩き始めた。「今でも遅くないかな?」「今日は予約なんて取ってないし、たいしたところも空いてないでしょ」彼女は笑った。暗くなったビルの間から、繁華街に通じる通りが春の強い風に揺れて瞬いていた。

電子世界2

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