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Little stories

夢か何かだったのかもしれない

2024年4月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

「あんたの記憶はあたしが作った。あんたはあたしのもんだ。そして、体はみどりのもんだ。あんたの魂を、あんたの体に戻そうじゃないか。あんたの体は健康体になった上で他のところに再度冷凍保存してある。さあ、その体をみどりに返せ。」

「な、なに言ってるの?!私の体は」
「あんたの魂と命は、もう元の体にあるべきだ。あたしが消しちまったが、あんたは健康体になりたいって望んだじゃないか。その願いを叶えるために、あたしは文字通り命張って」

ユキヒロは何も言わなかった。が、ムラキは言った。
「トモエ…行きな。あんたの体があんたのものじゃないとは、実は知ってはいたんだ。だが、元の体が無いままでそんなことを言うなんて残酷すぎるから黙ってたんだ。さあ、行け。命令だ。聞けよ。」
「私はあんな悪党とは一緒には…」
「あそこまでしてくれちゃった奴を悪党だと?ちゃんと元に戻してもらってから文句言いな。あんたが生きてるのは誰かのおかげだと私は思ってきた。それが、私たちが捕まえようとしていたあいつらだったんだ。捕まえることと、あんたが助かることは、別の次元のことだろう?」

「ちょーーーっと違うね、全部、あたしのやったことだ!文句は絶対言わせねえ!黙ってついてこい!そうでなければ」ヨシが縄をトモエの、いや、みどりの体に放り投げて捕まえ、車に乗せた。「ちょっとこいつ借りるよ」「ムラキさん!ちょっと、私全然納得できな…」ヨシがガムテープでトモエの口だけを丁寧にふさぐ。「うるさいのは嫌いなんだ、黙ってな」

「バカ!一時間もこんな…」「これでも飲んで落ち着いてな」三人はトモエの屋敷にいた。ユキヒロは行きたがったが、ムラキという上司の権限で黙らせたらしい。

「ヨシ、病院に行ってこい。妹だと思っていたあの女の子はな、」
「みどりなんだろ?」
「ものわかりいいじゃねーか、随分今日はいい子で」
「これが終わったらさ、アキはどうするつもりなんだ?」
「…ヨシも来るか?あたしはもうここにはいられねー。」
古い機材を出して、アキはそれを、トモエに繋いだ。

ヨシは、病院から「みどり」の体を連れ持ち出してきた。「俺たちがやり合ったみどりっていうのは…」
「あれはカシが作った失敗作だ。本物はこっちさ…」
みどりの体をさしてそう言った。
「みどりはな、本来生きていなかったが電子の渦に巻き込まれる事故で一度命を失いかけて、あたしたちと同じ体になった。それから…色々あって生きるのを一度休みたいと言い出したんだ…」
「それで寝込んでたのか」 「いや、命と魂を置いて、ネットワークの中に意識と、不完全な記憶をしまいこんで、行ってしまったんだ。つまり、知らない相手じゃなかったんだ。ただ、あんな風に変わってしまったとは思いもしなかった。」
「みどりの身体だけが、正確に時を刻んでいたってことなのか?」
ヨシはふとそう言った。
「そうだ。ただ、みどりは私たちのうち一番年下だった。だから、今の私と同い年くらいの見た目になっているのさ」
「と、いうことはアキたちがコールドスリープにいたのは」
「金が無かったからね、たったの数年ってことだ」


「だから、強盗みたいなことをやりだしたのか」

「そうだよ。金がなきゃ、トモエやみどりを助けてやれないだろう?」
「アキは、そのためだけに…カシが嫉妬したのはもしかしたら、」
「そうなんだろうな。あたしがずっと気にしてたのはカシのことじゃなくて、トモエのことだったからな。」

「さて、さっさと病院行って来い…」
「できねーんだけど。生命装置とか、モニタリング取ってんの忘れたか?」
「あー…。」
「俺らが面会って形で行くしかないんだよ」

「ヨシ、トモエの縄を解け」
「わ、私…」トモエは髪を揺らして何か言おうとした。「オッケー。じゃ、行くんだな」「もち」ヨシは一言、トモエに付け加えた。「逃げたらタダじゃすまさねえからな。俺はお前のこと全然信用してねえんだ、悪いなあ」

「クルマに乗れ。悪いが、乗ってる間は手足の自由を制限させてもらう。」
「ヨシ…」
「アキにとっては大事な人物なんだろうが、これは無事に終わらせなくてはならないことだ。」
「あたしに口を出せるようになったんだな、いいことだ。」
ヨシはその発言に違和感を覚えたが、ここは無視しておくことにした。

流れる景色。
「病院は近くなんだ。すぐ着くさ…」
ヨシとアキは病院に着くなり、ずっとキーボードを叩いていた。もうやるべきことはひとつだけだけれど。

ことがすべて、終わってしまった時、トモエは涙を流した。忘れていた出来事が、全部目の前にあった。「みどりはもうこれで死んでしまった…」

「いいんだよ、みどりはな、"もう死んでたんだ"。それに、生きてるのが嫌だったんだ。生きていたい奴と生きていたくない奴が二人、揃ったからこんなことをしたのさ。生きていたくない奴の身体が役に立っただけのことだ。あたしはネットワークの中で不完全なみどりの残骸に再会して、間違ったことをやっていることはもうよくわかったから、もういいんだ。」

「アキ、あなたを恨めばいいのか、感謝すべきなのかわからない」
「…そんなの、自分で決めろよ。好きなようにすればいい。あたしはね、あんたに生きててほしかった。でも、あたしはもう元のあたしじゃない。あんたには同僚や上司がもういる。あたしたちはもうこの街からでていく。あんたは寿命を全うする。それだけで、もう充分だ」

アキは周囲の異変に気がついた。
「ヨシ!行くぞ!」
「もういいのか」
「ああ、いいんだよ。もういいんだ」
窓のそばにいるトモエの髪が少しだけ切り離されて飛んでいく。
「寿命、か、それとも、それがてめーらの正義か」
ヨシはゲートを開いた。そして、2人は肉体ごと、ネットワークに入り、少し遠くに置いてあったクルマに戻った。古い機材は捨てて。

トモエは、後ろからガラス窓を突き破ってきた銃弾に貫かれ、倒れた。意識を失い、そこに落ちていたマシンを拾ったのはムラキだった。
「正義っていうのはね、一滴の墨汁も紙に垂らして汚してはならないものなの。私を憎まないでね、これはもっと上の命令だから逆らったら死体が増えるだけなの」
ユキヒロは頷いて、トモエを電子化するための装置を装着させ、データを抜き取った。

電子世界1

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